第15章 誕生日譚~前哨
振り返った赤い眼差しが嬉しそうに、そして何処か眩しそうに細められる。
そんな彼を前にしたら、
「…そ、え、あ……」
そう?とか、ありがとう、とか。
何か音にしようとするのに、どれも失敗して、佐奈は言葉を音にできなくて。
(ど、ど…しよ……)
何だか無性に恥ずかしい。
女性店員が、よくお似合いですよ、とかなんとか言ってくれているのが、妙に遠くに聞こえる。
でも…そんなことより何よりも。
(煉の顔が…何か……)
今日までにも、たくさんの表情を見せてくれるようになった彼だけれど、今しがた見た、初めてのそれは佐奈にも嬉しいことのはずなのに…それなのに、直視できない。
俯いて、上手く隠せているかも怪しい顔が、自分でも熱くなっているのが分かる。
(やだ、もうっ。何これ?)
とはいえ、煉も実のところ、かなり大変な状況(心境?)だった。
何も受け取ろうとしてくれない彼女にプレゼントする為、自分の誕生日を利用してやろうと思ったのは、実は結構前からだった。
それから、自分の懐(バイト代)と相談しつつ、佐奈に内緒で店を巡り、何を贈ろうかと散々悩んだりもして。
結局、服を贈ろうと決めて、彼女に似合いそうなものをこれまたあちこち見て回った…ものの、男一人で女性服のショップを歩き回るのはさすがに勇気が要った。
それでも…どうにか納得できるところに行き着いた後には、
今度は違うことが気になりだした…というより、心配になった。
佐奈は気に入ってくれるだろうか。
どんな反応をするだろうか。
本当にもう、次から次へと色々なことが気になって。
いつも平然としているとか余裕そうとか言われることも多い自分をして、我ながらこんなにぐるぐる考えることになろうとは思わなかった。
まして、女性服を選ぶ…なんてしたことがなかったから、店員を相手に相談するだけでも、最初は異常なほどに疲労を覚えたりもしたが。
でも、その全てが佐奈に関わることだと思うと、それだけで不思議と心地好く感じている自分がいた。
これを知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか……。
日を追うごとに期待と不安が入り混じって堪らなかったが、今日という日までは絶対に悟られてはいけないと自分に言い聞かせて、必死にいつも通りの自分を貫いた(つもりだ)。