第15章 誕生日譚~前哨
カフェを出てから十数分後、佐奈がいたのは近所のスーパーではなく。
「それではお客様。ご注文のお品はこちらになっております」
どうぞご試着くださいませ…と、営業スマイルの女性店員にどういうわけか試着室へと案内されているのは、とあるショッピングモール内にある、とあるブランド店の中だ。
しかも、スカート一枚とか、そういうレベルじゃなく、しっかりコーディネートされた一式が今、佐奈の腕に抱えられている(というより、到着するなり渡されてしまった)。
そういえば、煉はバイト代が出ると、日頃のお礼に…と、何かをご馳走してくれようとしたり、何かを贈ってくれようとしていた。
しかし佐奈は、今は自分の為に少しでも貯めておくべきだと、それらのほとんどを固辞してきた。
もっとも、全拒否というのも何なので(それはそれで煉にも悪い気がしたし)、時々はご馳走になったりしてはいるが。
いずれにしろ、今まで何度も言ってきたにも関わらず、これは一体何事か。
本来なら即拒否のはずが、いつものちょっと食事をご馳走になるなんてレベルじゃない物を手にしながら、今回に限ってどうして佐奈がおとなしく試着室に収まっているか…というと。
『俺、実は今日誕生日なんだよね』
何もかもがこの一言に尽きる。
このところ仕事が立て込んでいて忙しかったせいも、もちろんある(今日も休日出勤だったし)。
更にはちょっと、これは完全に私的な問題だが、近頃自分的に釈然としないというのか、もやもやとしているものがあって、そちらに気を取られてしまっていた…というのは、言い訳にもならない、だろうか。
とにかくも、彼の『誕生日』発言に、そういえばそうだった、と思い切り忘れていた自分を暴露も同然の表情をしてしまった直後に、この現象は始まった。
詫びる佐奈を、煉はまったく責めなかったが。
『じゃ、俺のお願い、聞いてくれる?』
何だか嫌な予感がしつつも逆らえなかったのは、彼の誕生日を忘れていたという罪悪感からで。
でも……。
(でもだからって、これは何!?)
とあるブランド店に入るや、いつの間に取り置きなんてことまでしていたのかも知らないが、煉によるコーディネート済の服一式…しかもサイズもぴったりという代物を手渡された。