第14章 それぞれの事情
「そんなことないよ。ランチも美味しかったし。フルーツも美味しかった。ありがとね」
「……………っ」
実を言えば、あのカットフルーツは煉が休憩時間に食べようと、わざわざ取って置いたものだ。
ちょっと楽しみにしていたそれをなげうった煉にとって、何も知らないとはいえ、佐奈の言葉はひどく彼の胸に響いていた。
(何か……)
胸の奥で音がして……。
締め付けられるように…痛い。
そしてその痛みの理由を…煉はとうに知っている。
きゅ、と胸元に拳を寄せる仕草に佐奈が反応したことで、煉は、はっとして、何でもないよ、と笑みを作った(というより、作ることに成功した)。
「俺、今日はこれであがりなんだ。すぐ着替えてくるから、一緒に帰ろう」
「え?あ、でも私、これから寄るとこあるから、先に帰ってて良いよ」
以前の佐奈なら、喜んで一緒に帰宅していたし、『寄るとこ』なんて濁さずに煉に付き合ってもらおうとしたかもしれない。
でも今は、ちょっと…それを避けてしまう自分がいることに、佐奈は戸惑っていた。
(べ、別に、寄る場所があるっていうのは、嘘じゃないし)
ただのスーパーだけど、と心の中で呟くと、
「何処、って訊いても良い?」
「え……」
そう来たか、と佐奈は固まり、観念した。
「ちょっとこの先のスーパーにね。この前買い忘れたのがあったから」
「何だ。それなら俺も付き合うよ」
「え、でも煉、バイト終わったばっかりでしょ」
疲れてるのに悪いよ、と言ってみるも。
「それを言うなら、佐奈なんて休日出勤の帰りじゃないか。佐奈の方がよっぽど疲れてると思うけど?」
だから荷物持ちくらい自分がやる、と、煉は半ば強引に話を纏めると、そのまま着替えに奥へと行ってしまった。
「あ……」
置いて行かれて、佐奈は、はぁ、と息を吐く。
嫌…じゃない。
それは、違う。
でも、ちょっと距離を置こうとしているのは事実で、勘の良い煉は、きっと何か気づいている…気がした。