第14章 それぞれの事情
それはもう失態以前の問題だし、そんな連中を庇ういわれはない。
少なくとも、煉にそんなつもりは更々なかった。
しかもその『故意』という『悪意』を向けられたのは他の誰でもない、佐奈なのだ。
獣化をした野生の中だったら、あんな兎と猫なんて…とっくに……。
ちょっと物騒な思考が脳裏を満たしかけたところで(ついでに牙が出そうになった)煉は、自制するように一瞬目を伏せ、意地悪く口の端を吊り上げた。
「今日はオーナーも不在だし。何かあったら、誰が責任を取るんだろうね?」
この一連が故意であることを、煉は佐奈に告げるつもりはない。
でも、だからといって佐奈に向けられたものを許せるわけもない。
見知らぬ客に同じことをしたとしても大失態だが、よりによってその対象が『佐奈』であるという点において、煉は絶対にあの二匹を許す気はなかった。
だから…佐奈に語りながら、煉はちろり、と気配を感じる斜め後方を流し見る、と、距離の離れた壁際で、飛び出していた耳はどうにか引っ込めたのか、兎と猫の擬人化二匹がこちらを窺うようにしている。
と、佐奈もそれに気づいて、振り返った
「あ、あの人……?」
店に入った時、案内してくれたのは、壁際にいる二人の内の…確か右側にいる彼女だったと、佐奈は記憶していた。
佐奈は初対面の相手の顔を覚えるのはどちらかというと苦手だったが、見え隠れするピアスで、彼女が近頃増えつつある女性の擬人化だと気づき、つい、その面もまじまじと見てしまった。
お陰で、珍しくその顔も記憶しているわけだが。
そして更に、そのすぐ左側にいるのは、何やらこちらをちらちら見ながら、結局奥に引っ込んでしまった、あの彼女だ。
挙動がおかしかったから、これまた、佐奈の記憶にしっかりと残っている。
そんな佐奈に、ひそ、と教えてくれた煉曰く、彼女達は二人ともに雌の擬人化なのだという。
一人はそうだと気づいていたが、二人とも…とは。
なるほど、と佐奈は頷いた。