第14章 それぞれの事情
「あ、それ、聞いたことある」
「え?」
「女の子には届かないのを、ウェイターさんにやってもらうのが良いんだよねーって」
「何、それ?」
「長身の誰かさん達が『失礼いたします』って、自分の為に奉仕してくれるのが嬉しいんだって」
いつだったかカフェの近くですれ違った女の子達(もちろん知らない子達だが)がそう言っているのを、何度か見かけたことがある、と佐奈に教えられて、煉は違う意味で肩を落とす、というより、げんなりした。
「何、『奉仕』って。ここはただのカフェなんだけど」
やや疲れたような、呆れたような言い方をして、まあとにかく、と煉は軽く咳払いした。
いずれにしろ、この大きなガラスの壁が幾らオーナーのお気に入りポイントでも、それがクレームの原因になっては、何らかの手を講じないわけにもいかない。
といってもすぐにどうにかできるわけでもないから、それまではスクリーンを下ろすなど、人的フォローで補ってきたのだ。
「そういうわけで、今日オーナーは業者の人と打ち合わせで出かけてるんだよ。それが片付くまでは極力この席は使わないようにって方針でね。それなのに、その留守中に…ね」
かつてのクレームにつながった、それと同じことが繰り返された。
しかも当時は、ランチタイム後の時間帯にも関わらず満席という事情があったが。
「今回は、これだけ空席があったのにね」
とはいえ、他の窓際席は何処も埋まってはいたが、それならそれで、フロアの中央席へ誘導するのが本来のところだ。
それをわざわざ、この席に通すなんてありえない。
佐奈が来店した時、主だった店員数名は交代で休憩に入っていて、煉自身も他の接客に追われていた。
お陰で佐奈がこの席に通され、揚句、スクリーンも下ろされずに陽射しに晒されているのを視界に捉えながら、すぐにフォローに行くことができなくて。
手が空いてからすぐに佐奈の元に向かってスクリーンを下ろしたが、間があいてしまったのは事実だ。
煉にしてみれば、それは、
(失態は失態…だね)
自分は特別、真面目なわけではない。まあ、仕事としてやるべきところはこなしているが、それだけだ。
それに、どうしたところで煉的に受け入れられないのは、今回に限っていうなら…これが偶然の事故や失敗…ではなく、故意によるものということだ。