第14章 それぞれの事情
別に必要ないのに…というよりも、煉的には。
「『佐奈さん』とか……」
いつの間にか名前呼びだし、と極々小さな声で嘯くのは、耳の良い友人(遙)にも聞かれたくない煉の本音だから。
「煉?」
聞き取れずに首を傾げる佐奈には、煉は一つ息を吐き、それから。
「さっきは、ごめん」
「……………」
「代金のことは、本当はランチの内容だけじゃなくてさ」
「え?」
自分からは話してくれないだろう、と思っていたことに、煉が自ら触れている。
「他に、何かあったの?」
佐奈は真面目に煉を見上げた。
すると、煉は躊躇うというより、嫌そうにしつつ、しかし、口を開いた。
「実は…ちょっと手違いがあってね。この席ってさ、陽当たりが良すぎるんで、時間によっては結構嫌がられたりするんだよ」
特に昼時から午後にかけての…今のような時間帯。
真夏になれば、それは更に……。
だから満席の場合は今日のようにスクリーンなどで対応したり、グリーンカーテンを採用してみようかという話も出ているが、それはまだ先のことだ。
だから現時点の対策として、他に空席がある場合は、まずこの席には客を通さない。
なのに…今日のこの時間、ランチ客もほぼ引いて空席のある状態で、ある店員が佐奈をこの席に案内した。
かつて、やはりこんな時間帯に、うっかりこの席に客を案内してしまった店員がいたことを、煉は追想しながら告げた。
それでも、すぐにスクリーンで陽射しを遮るなり、対処を怠らなければまだ何も起こらなかったのかもしれないが。
「その上、あの時はスクリーンを下ろすことも忘れてね。たまたま忙しくて俺達もフォローが遅れた結果…大クレームになったんだよ」
天井まで届く大きなガラスからの眺望はカフェの売りの一つだが、そのせいでスクリーンも、それを下ろす紐の位置も微妙に高くなっている為に、女性客の場合、手が届かずに自分で下ろすことが難しい…という事実も、実はその時に発覚したものだった。
「このカフェって従業員が男ばっかりなせいか、そういうとこ盲点だったというか。まあ、気がつかなかったのが悪いんだけどね」
やれやれ、と肩を落とす煉に、佐奈はふと思い出したように小さく笑い出した。