第2章 共同生活
そして、ほどなくやってくる、分かれ道。
そのまま直進する佐奈と、左折する煉。
「じゃあ……」
言って、曲がろうとする煉に、佐奈は口を開いた。
先生らしい…ってどんなことか、今もよく分からない。
煉にとっての良い先生というものが、どんなものかも、まだ分からなくても。
「行ってらっしゃい!」
声を掛ければ、向きを変えかけていた身体を、煉はもう一度くるり、と振り返らせて。
「行ってきます、先生」
「うん。今日も頑張ってね」
「そっちこそ。あ、そうだ。今夜のご飯は…できたらカレーライスでお願いします」
「か、カレー?」
元々今夜の食事当番(朝晩の食事は現在当番制だったりする)は自分だと佐奈的にも分かってはいたものの、リクエストされるとは思わなかった。
自慢じゃないが料理が(かなり)苦手な佐奈は、頑張ってはみるものの、まあ、色々と失敗作も積み重ねている。
にも関わらず、そういうところでは何も言わずに食べてくれていた煉だったのだが。
これは…初めてのリクエストではなかろうか。
「ダメですか?」
反応が遅れる佐奈に、煉が首を傾げる。
佐奈は反射的に首を振った。
「う、ううん。良いよ、もちろん」
「じゃあ、お願いします。焦げてないやつで」
「っっっ!!」
失敗しても、焦がしても、味が薄かったり濃かったりしても、料理に興味がないのかというくらいに何も言わずにいた煉だったが、どうやらそうじゃなかったらしい。
いつだったか、かき混ぜ損ねて焦げの浮いたカレーを出したことを、しっかり煉は記憶しているに違いない。
お蔭で…かは知らないが、今ではもしかしたら煉の方が料理も上達しつつある予感だ。
「こ、今度は焦がしませんよーだ」
「楽しみに帰ります」
「も……っ」
もうっ!と佐奈がつい声をあげる、それより早く、煉が嬉しそうに満面の笑みを見せたから、佐奈は続く声を呑み込んで、苦笑するしかなかった、と、
「先生」
「?」
「行ってきます」
それはさっき聞いたし、言ったはず…なのだが。
煉がもう一度、言うから。
「行ってらっしゃい、煉」
「先生も」
「うん」
頷いて、二人は今度こそ道を分かれた。