第2章 共同生活
「煉!」
「お気に召していただいて、光栄でございます」
「だ、誰も気に入ったなんて言ってないでしょ」
ああ言えば、こう言う。
こんなやり取りが、何だかいつの間にか板についてしまったこの頃。
そんな煉は今、カフェでアルバイトの日々を送っている。
整った顔立ちで、にっこりと営業スマイルなんてされた日には、それこそ女性客の喜ぶ顔が目に浮かびそうだ。
(あれ、でも……)
そういえば、煉が仕事に馴染めているか気になって、何度か店に足を運んだことがあった。
問題なく仕事をこなしている、と店長からの評価は得られたが、一方で、あまり周囲と馴れ合おうとしない風が見えると言われた。
擬人化にも理解のある店長は、元が狼なのも関係してるのかもね、なんて言ってくれて、その場は頷いた…のだが。
店長曰く、(やればきっと)破壊力抜群だろう笑顔も、それこそ必要最小限らしい(別に無愛想というわけでもないから問題ないと言ってくれたが)。
家ではよく笑う煉なのに……。
まあ、何だかちょっとあしらわれているような、からかわれているような、そんな感じもあるようなないような…ではあるのだけれど。
「ふーん……?」
いつの間にか、唸り声(?)の出ていた佐奈の頭にぽんぽん、と手が乗る。
その感触に気づいて、佐奈が上を見上げた。
「なあに?」
「別に?」
「子供じゃないんですからね」
らしくないけど、これでも一応『先生』なんだからね、と、確かにらしくないことを自覚しつつ、それでも佐奈が頬を膨らませると、煉は笑って肩を竦めた。
「もちろん知ってますよ、先生?」
「分かってないでしょ、その言い方」
「心外だな、分かってますよ。でも、俺より先生のが年下なのは、多分確実だし?」
「………は?」
初耳だ。
佐奈が目を瞬いている間に、煉は、自分と佐奈のバッグとを手に取った。
「ほら、もう出ないと俺もバイト遅刻しちゃいますから。先生のバッグはこっち」
「あ…う、うん」
言われるまま、家を出て。
途中まで一緒の道を並んで歩く。
明らかにコンパスの長い煉との歩幅に差が生まれないのは、煉が佐奈に合わせているから。
そんなこと…諸々、佐奈は煉への理解と共に学んでいる。
勉強したり、色々学んだりするのは、何も生徒だけではないのだ…多分。