第13章 カフェ騒動
長時間のバイトに入っている日は、休憩と同時に店の食材で軽食を摂ることが許可されている。
だから煉が厨房に入っても、何ら不審に思われることもない。
煉は手を洗うと、既に完成しつつある佐奈のランチにちょっとした小細工をする。
厨房に立つバイト仲間に上手く目配せして見て見ぬ振りをしてもらいつつ、くす、と笑んで満足したところで、ぴくり、と耳朶を刺激する話し声に、煉は動きを止めた。
声の出所は、厨房の奥の廊下から。
声の主は…見なくても分かる。
同じ擬人化の、バイトの同僚……。
数は…3、だろうか。
そして、内容は……。
「え、うっそ!」
「嘘言ってどうすんだ。あれは煉の『先生』なんだよ。そもそも、あの席はNGって言われてんだろ」
「それは…だって! でもやだ、どうしよー。煉さん、怒るかなー?」
「知るか、バーカ!」
「バカって何、つめたい~~」
「バカはバカだろ」
「で、でもでも、先生と擬人化が良い仲になっちゃうこともあるって聞いたことあるしー」
「だから何。煉が気にする女が店に来るたびに嫌がらせするわけか。いっくらでも空いてる席があんのに、あんな陽の強い席に通したりとか」
「だってー。煉さんて誰にも興味なさそうじゃん。それなのに、あの人が入ってきたら何か雰囲気変わっちゃうんだもん!」
佐奈の来店を知った自分はそんなに分かりやすかったのか…なんて苦笑いしている場合じゃない。
彼女が現れた時、丁度手が離せずに案内できなかった自分だが、代わりに案内したのが誰だったかは知っている。
よくもあんな陽射しのきつい席に、と、そうでなくても苦々しく思っていたが、なるほど、こんな裏があったとは……。
煉は聞こえてくる声をしっかりと判別しながら、鋭く目を眇めた。
数は、やはり3で間違いない。
内2つは、雄の擬人化に遅れて最近実用に至った雌の擬人化で、まだまだレベルも実践能力も低く、何かと失敗の多い二人組だ。
レベルや経験については誰もが通る道だから(自分もかつては覚えがあるし)、とやかく言う気もないし、教育しろと言われれば、必要なことを教えもするし、近頃ではそれなりになってきたこの頃…と思っていたが。
まあ、早い話がそれだけで、煉的には何の感慨もない相手だ。