第13章 カフェ騒動
佐奈が紅茶…しかも近頃のような暑い日にはアイスティを好むことを、煉は知っていた。
特に、今日のように仕事などでちょっと疲れているような時は、レモンよりストレート(家ではちょっと甘めにしている)を好み、食後に嬉しそうにしながら飲んでいることも。
だって、毎日一緒に暮らして、傍で見ているから。
だから…佐奈の嫌いなものだって、実はちゃんと知っていたりする。
煉は、ランチタイムを過ぎてはいたものの、佐奈のオーダーを上手く厨房に滑り込ませながら、ふと、引っ掛かった。
佐奈の選んだAセットのメインは夏野菜の冷製パスタだが、セットの中に含まれている一品は……。
(あれ、確か……)
佐奈が苦手な食材だったはずだ。
(まあ、食べられないわけじゃなかったはずだけど)
そんなことを心の中で呟きながら、煉は家でのとある食事風景を思い返した。
『これ…ちょっと苦手なんだよねー』
そこにあれば普通に食べることはできるが、でもちょっと苦手。
顔を顰めてそんなことを言っていたのを思い出す。
それなら家の食事に入れなければ良いのに、と言ったら、
『そんなことしたら、煉も苦手になっちゃうかもしれないでしょ』
それは良くないと思うんだよね、なんて語る彼女は『先生』の顔をしていた。
これが家族や友達…あるいは恋人相手なら、自分の苦手なものを敢えて食卓に並べたりしないかもしれない。
思い出し、煉はぎゅ、と拳を握った。
(でも佐奈、ここは家じゃないよ?)
オーダーしたセットの中に自分の苦手なものがあることを、もしかしたら彼女は見落としただけかもしれない。
あるいは……。
幾つかあるランチセットの中で、冷製パスタがメインなのは、あのAセットだけだ。
とすると、彼女は冷製パスタが食べたかったのかも?
そう考えついて、煉は何となく納得した。
(そういえば佐奈、好きだったな)
気づけば何てことはない。
多少苦手だけど食べられる一品を避けるより、食べたい冷製パスタを取った、と、まあ、そういうことらしい(あくまで煉の予想だが)。
(なるほど。じゃあ、どうしようかな)
ふ、と口元を綻ばせて、煉は自らも厨房に足を向けた。