第13章 カフェ騒動
でも、今は違う。
こんな風に柔らかな表情を見せてくれるようになった。
それは佐奈にも嬉しいことだし、こんな笑顔を向けられたら、自分まで微笑んでしまいそうになる。
実際、いつの間にかつられるように頬を緩めていた佐奈に、煉は微かに首を傾けた。
「仕事、終わったの?」
「うん」
「そっか。お疲れ様。せっかく来てくれたんだし、ゆっくり休んでいって」
既にランチタイムの混雑は過ぎている。
のんびりしていってね、と労うようにしてくれる彼に、佐奈は肩の力を抜いた。
(私が考えすぎなきゃ良いんだよね)
そう…きっとそうだ。
そんな風に自己完結するようにして、佐奈はメニューに目を落とした、が。
「あ……」
ランチタイムメニューには、14時までと記載されている。
けれど時計を見遣れば既に14時を回っていて。
どうやら煉がオススメのランチセットを注文するのは無理らしい。
佐奈は残念そうにしながらレギュラーメニューを見ようとした…と。
「まだ大丈夫だよ」
「え?」
一瞬、彼が何を言っているか分からない佐奈だったが、ちら、と彼の目がランチメニューに注がれたのに気づいて。
「あっ」
分かった、とばかりに声を上げる佐奈に、煉はにっこりと微笑む。
ゆっくり決めて良いから…と告げる傍ら、手にしていたボトルとトレーを空いているテーブルに置くと、佐奈の真横に広がる大きなガラスに、そつのない動きでスクリーンを下ろした。
「ここは景色が良いんだけど、陽射しが強いんだよね」
言いながら、煉はスクリーンを全部は下ろさず、佐奈に直接陽射しが当たらないように、それでいて、その視界から街の景色を完全に遮断しないように、絶妙の高さに調節する。
その所作にはぎこちなさはなく、まるで手慣れた風…というのか、堂に入っているというのか。
煉が何かと器用な部類なのは、佐奈も気づいてはいたけれど。
「すごい、器用だね」
思わず洩れてしまった呟きに、煉は何でもなさそうに振り返った。