第13章 カフェ騒動
辺りを見ればタイミングが悪いのか、近くに店員の姿がなかったが、他にも席は空いているようだし、いっそ別の席に移ってしまおうか。
それとも…別に長居をするわけでもないし。
(食べたらすぐに帰れば良いかな)
そんなことを考えている佐奈の視界の隅に、さっきはいなかった女性店員が、やや離れた場所からこちらをちらちら見ているのが映った。
が、それも何故かすぐに奥へと逃げるように引っ込んでしまって、佐奈は不審に首を傾げた。
以前、何度かここに来た時には、見かけなかった気がする。
それに、前はもっと雰囲気が良かったというか、色々と行き届いていたような気もするが(少なくとも、あんな風にちら見しながら逃げるように去っていく店員はいなかった)。
(気のせいかな……)
それほど常連というわけでもないから、よく分からないし。
佐奈は、まあ良いか、とばかり、その場ではあ、と息を吐いた。
と、不意に脳裏に滑り込んでくるのは、やっぱり煉のことだったりして。
煉とは普通に話もできるし、接することもできる。
関係がぎくしゃくしているわけでもなく、むしろ仲良くできている、と思えるのに、これはどうしたことだろうか。
(そういえば最初の頃は、車は危ないからって、私が車道側歩いてたのにな……)
今はそれもすっかり逆転している。
それもこれも彼が成長した証…なのかもしれないが。
彼に庇ってもらったり、間近に接することに、どきどきする…なんて……。
(ダメダメ、ありえない)
佐奈はテーブルに置かれた水を口に運びながら、心の中で否定した。
第一、以前は同じ状況下でも、そんなことはなかったのに。
いつの間に…こんな……。
まるで彼を男性として見ているかのよう…なんて……。
「ありえない」
言いながら、とん、とグラスを置けば、絶妙のタイミングで透明な液体が注がれた。
「何がありえないの?」
「え………」
聞きなれた声に、佐奈は目を瞠る。
視線を向ければ、そこでは煉がミネラルウォーターの入った涼しげなボトルを手に、嬉しそうに微笑んでいた。
そういえば、同じ笑顔でも、最初の頃の煉は、こうじゃなかった。
張り付いた微笑…と形容できるような、何を考えているのか分からない、ただ形だけの笑顔……。
それが、当時の彼が自分に見せていたものだった。