第12章 願うものは(煉視点)
何かと感情が表に出やすい佐奈をして、いつもと変化なしというのは、本当に意識すらされていないんだと思い知らされたようで、楽しさの反面、これはどうにもいただけないと、思いを新たにするには十分な結果に終わった一日。
以前から、それは何となく分かっていたことだけれど。
改めて、煉は再認識した。
(結局、今の俺は『男』って認識されてないんだろうな)
ちょっとドジだったり、抜けていたり…それから結構怖がりだったり、真面目で一生懸命な彼女。
佐奈だから…好きになった。
一度目の『あの人』のこともあったから、自分が『先生』を好きになるなんて夢にも思わなかったが、この感情は『先生』だから生まれたんじゃない。
『佐奈だから』…好きになった。
でも彼女にとっての自分は、あくまでも。
(俺は、擬人化の生徒……)
きっと彼女のことだから、自分は先生なんだからしっかりしなきゃとか、頑張らなきゃとか、そんな風に考えてるだろうことが、確かめなくたって手に取るように分かる。
けれど、彼女が自分を『生徒』としてしか見ない限り……。
(俺の気持ちは伝わらない)
例えば覚悟を決めて告白したとしても、今の状況では受け入れてもらえずに終わるだけだ。
もっとも、そんな風に終わらせるつもりなんて、更々ないけれど。
擬人化でも…生徒でも、ここにいるのは『一人の男』だと認識してもらわなければ、まずは始まらない。
だからと言って、いきなり迫るような真似をする気はない。
自分的にそれはどうかと思うし、それに。
(大体、いきなりそんなことしたら警戒するよ、普通)
警戒だけならまだ良いが、怖がらせるようなことになったら、それこそ意味がないわけで(というより別の意味で終わりそうだ)。
じゃあ、当面このまましかないのか…といえば……。
ぎし、とベッドのスプリングを軋ませて、煉は立ち上がりながら伸びをする。
慣れた手付きで着替えを済ませれば、ドアを開けるまでもなく、丁度良いタイミングで食欲をそそる香りが鼻腔を擽って煉を喜ばせた。
「「おはよう」」
キッチンに立つ彼女と目が合った途端、どちらともなく発した声が見事に重なって、朝から二人で声を立てて笑う。
それだけのことが、何だかくすぐったい。
朝食をテーブルに運ぶのを手伝い、向かい合わせの…今では定位置となった椅子に腰を下ろした。
