第12章 願うものは(煉視点)
不意に降り出した雨……。
念の為にと一本だけ携帯した傘に二人で入った…それは肩が触れ合うほどの距離だった。
もっぱら傘を持つのは背の高い煉の役目だったが、二人で入るには小さな防備に、隣を歩く彼女が濡れないようにと、煉はそっと傘先を傾けた。
でも、どうやらそれは彼女も同じだったようで。
「駄目だよ、煉。風邪ひいちゃうよ」
言いながら、彼女の方へと傾いていた傘が水平に戻され…るどころか、逆にこちらへと傾きそうになるから、煉は傘の柄を持つ特権(?)で、ぐ、とそれを押し留めた。
「そっちこそ、だよ。先生?」
そんな風に二人で歩いた帰り道、同じようなやり取りをその後も何度か繰り返した。
でも、それは全然嫌じゃなくて、何だかこそばゆいような…これもやっぱり、彼女だけが自分に教えてくれるものの一つなのだと、心の何処かで感じていた。
それは、二人で夜更かししたあの時に約束した(佐奈は寝ぼけていて約束そのものは覚えていないようだったが)、買い物以外での、二人で過ごす初めての外出……。
まあ、結局のところ、食材やら何やらと、いつも通りの買い物も含まれてはしまったけれど。
(楽しかったな……)
漂う意識に、煉はそんなことをふわふわと思う。
でも同時に不満というか、ちょっと釈然としないものも…発覚した。
(結局……)
心の奥で嘯いて、煉の意識が、ふっ…と完全覚醒する。
朝だというのに薄らと汗ばむような、何処か不快感すら覚える、そんな朝。
ごろり、と寝返りを打ちながら、煉は気難しげに目を開けた。
目覚めと同時に眉間が寄ったのは、朝から纏わりつく湿気と暑気のせいじゃない。
まあ、それはそれで不快だが、煉の意識を…目覚めどころか微睡みの中でさえ占めるのは彼女…佐奈、だった。
当日になるのを楽しみにして出かけた、あの日。
何処に行こうかと、何日も前から二人で話題にもしていた行き先は、擬人化してからまだ一度も行ったことがないと煉が告げたものの一つ、水族館と、併設していた遊園地がメインに決定した。
水族館では初めて見る生き物やショー釘づけになり、餌付け体験もした。
そして遊園地では尻込みする佐奈を説き伏せて(というよりちょっと強引に)、絶叫マシーンやら、お化け屋敷なんてものにも入ってみた。