第11章 眠れない夜(煉視点)
だからあの夜…シオンと共にあの廊下を進んで…彼女のいる、その気配を感じられるだけの距離にある、あの部屋の近くを通り掛かって。
はっ、とした。
気づいた時には、獣化して駆け出していた。
何も考えずに、ただ、あの気配の傍に行こうとする自分がいた。
ただ、その為だけに……。
お陰で、彼女をひどく驚かせてしまったけれど。
あの夜に、逃走した偶然。
あの夜、彼女があそこにいた偶然。
そこを通り掛かった…偶然。
幾つもが重なって、彼女に再会した。
初めて彼女を間近にして、すぐ傍で気配を感じて、最初に抱いた自分の勘は間違っていなかったと直感した。
けれど…彼女との再会は偶然でも、自ら望んで彼女の傍に居続け、この先もずっとそうしていたいと願うのも、それ以上の感情を抱くようになったのも、それは偶然じゃない、自分自身の意思だ。
初めて見かけた時に感じた、何となく気になったあの感覚は、確かにきっかけではあったかもしれないけれど。
こんなに想うようになったのは…大切にしたいと思えるようになったのは、それは彼女との時間があったから。
彼女の傍にいたから。
何より…傍にいてくれたのが、彼女だったから。
『先生だから』じゃない。
先生だから、生徒だから…なんて関係ない。
『彼女だから』だ。
だから……。
(絶対に……)
心に落とした、決意めいた呟きはやがて。
「離さない」
(誰にも渡さないし、譲らない)
心の声と、現実の言葉とが、いつしかない交ぜになって表に零れて……。
そっ…と伸びた煉の掌が、佐奈の頬を掠める、その刹那、
「ん………?」
目の前で薄らと開いた佐奈の目に、煉はぎょっとした。
(起こしちゃったかな……)
まずい、と咄嗟に思うよりも、彼女の頬に伸ばしてしまったこの手を、一体どうしたら?
ぴし、と固まる煉だったが、しかし、佐奈はただ、へらり、と笑う。
(寝ぼけてる?)
そう察知するに十分な要素満載で、佐奈は一人にこにこしていて。