第11章 眠れない夜(煉視点)
『煉は、いっぱい頑張ってきたんだね』
夢現に、そんな声が聞こえた。
優しい…柔らかい、堪らなく大好きな声と気配……。
うっとりとした夢見心地で、ふわふわ漂う意識が浮上したのは、どれくらい経った頃だろうか。
ふっ…と、意識が浮上した煉が目を開ければ、
「………っ!!」
思わず上がりそうになった声を咄嗟に呑み込んだ自分を褒めてやりたいくらいに、煉は驚いた。
いつの間にそうなったのか、煉の頭は佐奈の膝の上に乗っていた(しかも仰向けで)。
(これって…何だっけ)
寝起きの頭で、これって聞いたことがあるぞ、と、かつての学習(?)の記憶を辿って、煉は答えを導き出す。
(確か…そうだ。膝枕ってやつ)
他にも…本には何と書いてあったろうか。
辞書やら小説やら何かの全集やら、当時はあちこち読み漁ったから、出所が何処かなんて覚えていないが。
(何か…こう……)
仲の良い男女がこんなことをしていた描写があった…ような……。
いや、仲が良い…というより……。
(恋人同士…だったような……)
思い至って、煉は身じろぎたい衝動を、これまた辛うじて堪えた。
当然、声も出せない。
そんなことをしたら彼女を起こしてしまう。
何も知らない佐奈は煉を膝枕に、すやすやと気持ち良さそうに床に座ったまま眠っている。
窓に寄り掛かっているとはいえ、これでは疲れないだろうか。
(寝違えたりしないのかな)
そんなことも、色々心配だったりするけれど。
だからと言って変に動かしたら、やっぱり起こしてしまうかもしれないし。
(それはそれで、良くないか)
よく寝ているのに、起こしたら可哀相…な気がする。
でもこのままなのも、純粋な意味で良くないかもしれないし…それより何より、すごく、煉的に(こちらはちょっと不純な意味で)よろしくない感じだ。
何故って……。
(目の前…すぎるんだよね……)
ゆらり、と時々、彼女の首が上下に揺れる。
その度に佐奈の顔が不意に近づいてきたり、離れたり。
煉にしてみれば、本当にもう、色々と悪いことこの上ない。
(これ…やばい)
何故って、このままでいたら……。
(触れたい……)
目の前にある柔らかそうな頬に…唇に…触れたくなる。
今だって、触れたくて堪らない。
人間の男女の愛情表現というものを、煉は知っていた。