第10章 夜語り
擬人化の自分は、研究所に通ってまだまだ勉強したりするし、バイトなどで実践を積んだりもする。
そして先生…佐奈にも、勉強以上の、日々の生活の中でたくさんのことを教えてもらっている。
でも…こんな感情を教えられるなんて、思わなかった。
これはきっと、教えようとして教えられるものじゃないし、教わろうとして身につけられるものでも、多分ない。
佐奈にしか、自分に教えられない。
感じさせることはできないだろう。
そう直感して、でも、煉はそれを口にはしなかった。
その代わり…ではなかったが。
「俺の、『煉』という名前は、あの人がつけたんだ」
「え?」
「俺は、髪もだけど、狼になると本当に全身真っ赤だからね。それを見たあの人が、火のイメージとか言ってたかな。だからこの名前、本当は変えたかったんだよね」
あの人の元を逃げ出して、研究所で保護された後で、今度は自分で名前を考えようか、とか、とにかく違う名前にしたいと思っていた。
けれど保護されたその夜の内に、思いがけず新たな先生に巡り合わせて、その上、
「シオンさんが、先生に俺のことを『煉』って名前で紹介しちゃったし」
だから何だか名前を変える機会がなくなってしまったのだ、と煉は微苦笑した。
「ああ、けど、今はこの名前、結構気に入ってるから」
『煉』と、他の誰でもない、佐奈に呼んでもらうと無性に嬉しくなる。
それもまた、出会った最初にはなかった感覚だったはずだが、いつの頃からか、嬉しくて堪らなくなった。
友達も仲間も、当然自分の名前を呼んでくれる。
でも、この嬉しさは、佐奈に呼ばれた時にしか生まれない。
佐奈が『煉』と呼んでくれるから、だから今は、この名前が気に入っている。
もちろん、そこまではさすがに何だか恥ずかしいような、照れくさいような気がして音にしない煉だったが。
「今はこの名前、好きだよ」
「煉?」
「そう、それ。だから、これからもたくさん呼んで?」
嫌いな名前なら、既に呼び慣れてはしまったけれど、変えた方が良いのかな、と、ふと思った佐奈だったが、煉が何だかとても嬉しそうに、そう言うから。
「うん」
自然と浮かんだ笑顔で佐奈が頷くと、
「良かった」
煉もまた、嬉しそうに目を細めた。