第10章 夜語り
彼女の喋り方…。
仕草。
醸し出す、その雰囲気。
そうしたものだけは、獣の勘の鋭さで、嫌でも感じ取れてしまっていたけれど。
どうしたところで相容れない互いを理解しようなんて、そんなもの…当時の自分には微塵も浮かばなかったことを、煉は思い返していた。
恐らく…向こうもそうだったのだろう。
だからこそ、どんなに遅く帰宅しようが、教師としての…彼女曰くのメンツに関わらない限り何の干渉も…というより、どうでも良い扱いを受けていたし、遅い帰宅を理由に、最後の方はほとんど食事も抜かれていたくらいだ(バイト代で調達していたから飢えはしなかったが)。
殴られたりという暴力は確かに受けなかったが、考えようによっては、これはこれで……。
「確か…何だったかな」
最近覚えた言葉の中に、何かあったような……。
煉が俯きながら首を傾げた途端、
「虐待だよ!」
「……………っ」
きっぱり言い切る佐奈を見遣れば、明らかに眉間を寄せて怒っている。
「先生?」
「ぶたれたりしなくたって、そういうのは立派な虐待だよ。精神的虐待ってやつ!」
煉の存在を黙殺し、仕舞いには食事まで満足に与えないなんて。
憤慨し、そのまま泣き出してしまいそうな勢いの佐奈に、煉はぎょっとした。
今の煉は、佐奈を信用も…信頼もしている。
でもまさか、研究所でもそうだったように、こんな風に怒ってくれるなんて思わなかった。
「せ、先生、先生……っ」
煉はどうしたら良いか分からなくなりながらも、泣かないで、と必死に佐奈を覗き込み、溢れそうな涙に恐る恐る指を伸ばし…ただ、指先が濡れて。
「先生……」
きゅ、と、煉は佐奈の頭を引き寄せた。
「泣かないでよ、先生。俺はもう大丈夫だから。今は、幸せだから」
「煉……」
「先生は俺のこと、何も知らなかったって言ったけど、それを言うなら、俺だって先生のことを知ろうともしなかった。前のことがあったから、そんなこと必要ないって思ってた。でも…これからはもっとたくさん話そうって言ったよね?」
「……うん」