第10章 夜語り
この三ヶ月…今では大分薄れはしたものの、最初の頃の煉がひどく緊張したような、警戒するような様子で自分と接していたのを、佐奈は感じ取っていた。
でも、初対面の相手と生活するのだから仕方のないことだろうとも思えたし、自分にしても、いきなり降ってわいた『先生』という立場に困惑してもいた。
だから緊張したり、その距離感を掴みかねて戸惑うのはお互い様だと思っていたし、そんな中でも、いつかは打ち解けられたら良いなと思いながら、そうしてこの三ヶ月で、少しは彼のことも分かるようになれたかも…なんて思ってもいたけれど。
「私…煉のこと、全然分かってなかったね」
たった三ヶ月で何が分かると言われればそれまでだが、でも何だかちょっと、淋しい気もした。
同居生活当初に比べれば笑顔も見せてくれるようになったし、言葉を交わすことも多くなった。
一緒に食事をしたり、同じ時間を過ごすことも少しずつ増えていた。
でも彼は『素』の自分というものを、ずっと出せずにいたのだ。
それさえ、自分は何も知らず、気づかずにいて。
彼ら擬人化の性格を把握する為に二つに分けて分類入力された性格タイプにしても、掴みどころがなく、何かあっても薄く微笑むばかりの彼に、なるほど第一タイプ『ミステリアス』とはこういうことか、とか、何かと丁寧な言葉を使うから第二タイプは『エレガント』と入力されているのかな、なんて、これまでは勝手に思って納得していた。
何も…知らないまま……。
駄目だなあ、と零れた、何処か淋しげな佐奈の独り言に、煉はぴく、と反応し、その肩から離れ様、今度は彼女の顔を覗き込んだ。
「駄目じゃないよ」
「え……」
「俺だって、今まで先生のことを知ろうとしなかった。そんなこと、必要だとも思わなかった。でも途中から、そうじゃなくなったんだ」
いつから…とか、そんなことははっきりしないけど、と、煉は少し恥ずかしそうに目を泳がせる。
三ヶ月…同じ場所で生活していれば、知ろうとしなくても目や耳に飛び込んでくる互いの情報というものはある。
でもそれ以上先へ踏み込むつもりは微塵もなかったと、煉は嘯いた。
「前の…あの人のところにいた時なんて家にもいたくなかったから、さっきも言ったけど勉強とバイト漬けだったんだ。だから三ヶ月あそこにいたけど、あの人のことなんて、ほとんど何も知らないよ」
