第9章 先生
煉に聞こえないように、一人でひっそり凹んだり、愚痴ったりしていたつもりだったのに。
しっかりバレていたなんて……。
佐奈は頭を抱えたが、煉は何だか楽しそうだった。
「何で? 別に何も問題なんてないと思うけど」
「大ありだよ!聞かれてたなんて」
「じゃあさ」
「??」
「どうせ聞こえちゃうんだから、これからは俺の目の前で愚痴れば良いんじゃない?」
「は?」
いきなり…一体、何を言っているんだろう?
佐奈には煉の言っていることが理解できない。
見られたくないし、知られたくない。
自分が弱ってるところとか、ダメダメなところなんて、見られたくないから……。
「だ、大体、私は…先生だし……っ」
生徒の前で駄目なところなんて…と言いかけるものの、
「家事が苦手なのは駄目じゃないんだ?」
なんて嫌なところを突いてくるこの狼は、さっきまで神妙にしていたのと同一人物…もとい、狼なのかと思うほどだ。
ちろ、とねめつけても、煉は何だか嬉しそうというのか、楽しそうというのか、笑顔は笑顔でも、今まで見てきたものとは何処か違う柔らかな何かが漂っている…ような……。
(なに、これ……)
どうしてこんな流れになったのか。
そんなことを思っても。
「先生だって、別に普通の人間でしょ?」
そうだよね?なんて、これまた的確に突いてくる攻撃(?)に、佐奈はぐっ、と答えに詰まった。
「そ…それは、そ…だけ、ど……」
何だか…何というのか、無性に悔しい気がする。
むう、と佐奈の眉間が寄ると、煉がぷっと吹き出した。
「生徒だからって遠慮なんてしなくて良いんだよ、って、初めてここに来た時言ってくれたのは、先生の方だよ?」
「……………」