第9章 先生
「せ、せん…せ……っ?」
明らかに戸惑って、彼の声が上ずっている。それでも佐奈は煉から離れなかった。
「ごめん…ごめんね……っ」
「何、言ってるの? 先生は何も……」
先生は何も悪くないでしょ、と、それを煉が本心で言ってくれているのは佐奈にも伝わる。
でも。
「でも、同じ『先生』だもん。こんなの…ありえない」
先生としてありえないし、生徒だったとしたら、自分だったらきっと耐えられない。
いつの間にか涙が零れて、佐奈は煉をぎゅう、と抱きしめた。
「ごめ……っ」
「でも、今の俺は、ここにいるから」
不意に、佐奈の頭上から、煉の声が降ってくる。
同時に、微かに…だが、そっと煉からも抱きしめられて、佐奈はぱちぱちと目を瞬かせながら上を仰いだ。
「……………?」
「俺が独学で必死にレベルアップしまくったのは、独立したいからだったんだ。けどよく調べたら、独立に必要なレベルはものすごく高いし、独立するにもいくつも審査があるとか、今現在同居してる教師の承認と推薦が必要だとか、とにかく色々条件が厳しくてね。とてもじゃないけど無理だと思って」
それで、とある夜、自ら獣化して研究所に飛び込んだ…それは佐奈も知る、あの夜のことだ。
「ガラスを破って中に入って、捕まっても構わないと思って研究所に潜入したよ。そうしたら、あの人…シオンさんに見つかって。擬人化して(ついでに服も借りて)今と同じことを話したら、その場であの人との師弟解消の処理をしてくれたんだ。それで当面は研究所内の寮で保護してくれるってことになって。だから本当は、俺はあのまま研究所暮らしになるはずだったんだよ」
「え?」
初めて知ったあの夜の、自分の知らなかった部分を耳にした佐奈は、きょと、としつつ、はっ、と我に返るように、わたわたと恥ずかしそうに煉から離れる。
と、煉は気づかれない程度に、そっと彼女の髪に触れ…離れるに任せた(といってもすぐ隣にいるが)。