第8章 追想
一度…いや、もしかしたら最初から狂い始めていた歯車は本来の軌道を取り戻すことのないまま、彼女にとって煉は不快なばかりの存在となり、そうした相手に、煉が心を開くはずもなく。
やがて彼女は、煉に対して冷たい態度で臨むようになっていった。
「擬人化って一口に言っても人間と一緒で、色んな性格がいる。誰とでも打ち解けられたり、素直に振る舞って甘えられたり…なんてのもいれば、俺みたいなのもいるしね」
こう見えて人見知りなんだよね、と、煉は肩を竦めた。
人見知り…というより、他者に感情をさらけ出したり、甘えたりなんて苦手だし、できないし、したいとも思わないし。
ましてや、素の自分を晒すなんて、それこそ、そうそうできやしない。
まあ、その結果が、これなのかもしれないけれど…とまでは、煉は皆まで言わなかったが、そうした彼の性情は、佐奈には何となく察するものがあるような気がした。
そして、一人目の彼女には、煉のそうした面は受け入れられないものだったのだろうか。
そこまでは、佐奈にも分からなかったが……。
「あの人には……」
続く煉の言葉に、佐奈は、はっ、と思索しかけていた意識を引き戻し、煉の横顔を眺める。
煉は、ただ前を向いて…窓の外を見るともなしに眺めているようだった。
「あの人には、お前は扱いにくいとか、変わってるとか偏屈とか、まあ、色々言われたかな。暴力は振るわれなかったし、衣食住もまあ、それなりだったけど」
これ以上、そんな人の傍にいたいとは思えなくて、まして、もう一人の擬人化とは至極仲良くしている様を見ているのも何だか居た堪れなくて。
「でも当時はまだ、あそこから逃げ出そうとまでは思ってなかったんだ。レベルが高くなった擬人化の中には、一人暮らしも許可されることがあるって聞いたことがあったから、俺もそうなってやろうって、レベルアップの為に滅茶苦茶勉強したよ」
人間社会への適応力を養う為に、カフェやバー、公園掃除や交通整理などなど、色々なバイトを掛け持ちもしたし、その傍らで時に図書館に通いつめ、時に研究所に入り浸って、予定されたカリキュラム以上の勉強を独学でこなしながらレベルアップテストの受験を繰り返しては、擬人化レベルを上げまくった。