第7章 月明かり
「俺が、聞いて欲しいんだ。先生が嫌じゃ、なかったら」
煉の語尾が、少しだけ自信なさげに萎んでいる。
佐奈には佐奈の葛藤があるように、煉には煉の葛藤も迷いも…それに、怖さもあった。
煉は、一人目の教師との関係に、既に失敗している。
それがどんなものであれ、煉にとってはショックなことだったし、今も傷となって残っている。
だから…『先生』と向き合うことは、煉には勇気が必要なことだった。
けれど今、目の前にいる彼女は、一人目の『あの先生』とは違う。
きっと聞いてくれる…聞いて、くれないかもしれない。
拒まれたら?
嫌がられたら?
引かれてしまったら?
信用できると思った、目の前の彼女に、もしも……。
それに…先生だからという以上に、無性に…煉は佐奈に嫌悪されたくないと、強く思った。
だから躊躇って、迷いもした。
部屋を出て、ここに来るまでに、葛藤もした…けれど。
同じくらいに、自分のことを知って欲しいと思った。
まるで相反するような、そんな心地……。
人間は、何だかややこしい。
擬人化することで、こんな感情を体験することになるなんて、知らなかった。
自分の過去…自らを晒すような真似は嫌で…何処か怖いような感覚がして。
それでも踏み出したいと感じる、これは一体何だろうか。
不安のような、自分でもよく分からないものを抱えて動けない煉の頭に、ぽん、と不意に何かが触れる。
ぴく、と無意識に震えたと同時に悟った、それは、彼女の掌だった。