第7章 月明かり
でも嫌悪とか、離れたいとか、そういう気持ちは微塵も生まれなくて。
混乱して、困惑しながら、そんな中で佐奈は、は、と感じるものがあった。
(そっか……)
研究所での『彼女』との邂逅は、佐奈にとってももちろん衝撃的なものだった。
けれど煉にとってはきっと…もっと……。
何か、言ってあげたい。
佐奈は、ふとそう思う。
だが何を言ってあげたら良いのか、今、どうしてあげたら良いのか、上手く思いつかない。
『大変だったね?』
『もう大丈夫だよ?』
何だか、どれも違う気がした。
(けど……)
何か、したくて。
佐奈は振り向かないまま、肩に乗った煉の頭を撫でた。
瞬間、
「っっ!!」
びく、と大袈裟なほどに、彼の頭が一瞬跳ねて…でも、離れずにいたから。
ぽんぽん、と、今度は軽く叩くようにしてみれば。
すり、と肩に乗った頭が少しだけ、甘えるように佐奈の肩上を滑るように動いて。
「俺のせいで…ごめんなさい」
声と同時に佐奈の肩から重さが消え、掴まれていた手が自由になる。
離れていく気配に、佐奈は無意識に振り返った。
途端に驚くような、息を呑むような彼の様子が伝わったが、佐奈は勢いのまま煉に駆け寄り…闇の中で影しか見えない彼の身体を抱きしめた。
とはいえ、体格の違いで、佐奈が彼を抱きしめている…というより、ほとんどしがみついているようなものだったが。
暗闇は幸い、彼の姿も…本当なら目の前にあるだろう彼の胸板も何も見えなくて。
だからこんなことができたのか、佐奈自身にも分からなかったが、佐奈は煉に謝って欲しくなかった。