第7章 月明かり
深夜も過ぎようという頃、かちり、と鍵を開けて、一人と一頭がやや疲れた様子で帰宅した。
ぱたん、とドアが閉じれば、ふう、とそこで大きく息を吐く。
奇しくも重なった一人と一頭の吐息に、それぞれは音もなく苦笑して。
それから…先に動いたのは、佐奈だった。
靴を脱ぎ、そのままの流れで壁にあるスイッチに手を伸ばす。
いつもなら、それで灯りがつくはず…だったが。
「………れ、ん?」
自分よりずっと大きな手が、スイッチの手前で佐奈の手首を捕らえていた…でも。
(え? でも、今の煉って……)
研究所からここまでずっと、彼は獣化していたはずだ。
もちろん、疲労によって獣化してしまったわけではなく、今回は彼自身の意思によるものだから、擬人化状態に戻ることだって自由にできるのは知っている、けれど。
(や…でも、でも……)
一度獣化すると、それまで着ていた服は脱ぎ捨ててしまう(破れるともいうが)。
だから獣化から擬人化する時には、考えるまでもなく裸だったりするわけで。
でも…今、佐奈の手を掴んでいるのは人間の、擬人化した煉の手…ということは……。
(え? え?)
混乱して固まる佐奈の背後で、煉が小さく囁いた。
「今は、振り向かないでくださいね」
「あ、う、うん!」
そんなつもりはもちろんないし、灯りもついていない暗闇の中では、どうせ何も見えないだろうし(多分)。
(じゃなくて!)
見える見えないの問題じゃなくて、今のこの現実が妙に恥ずかしくて、佐奈はどうにも微動だにできない。
そんな佐奈の肩に、こつん、と何かが当たった。
「………?」
何かが触れている、というより、乗っている。
(な、何?)
一瞬、分からなくて佐奈は戸惑った、が、自分のものではない髪が頬を掠めるのを感じて、そこに彼の頭があるのだと気づいた。
(ぅわぁ……っ)
気づいた途端、佐奈は心臓がばくばくしてしまう。