第1章 急転直下
そうして擬人化という状態に慣れ、所内でのカリキュラムを修了した彼らは『生徒』として、人間の『先生』に預けられ、共同生活…つまりは同居生活を始める。
授業だけでは当然教えきれない実際の生活というもの…人間世界というものを肌で感じ、やがて自らが人間となっていくための、それは重要な道だ。
それを経る上での研究所の中しか知らなかった擬人化達にとって、『先生』がどれほど重要なことか。
新たな仕事を与えられるのは嬉しいこと、だけれど。
その重要性を思えば思うほど、いきなりこれは手に余る。
佐奈はそう思った。
だから躊躇ったし戸惑ったし、当然断るつもりで。
「私が先生になるなんて、無理です」
きっぱりとそう、言ったのに。
「この研究所はまだ若い。私はそう言いましたね?」
言い様、きらり、と彼の目が光った瞬間、佐奈は息を呑んだ。
「そ、それが、何か……」
「つまり、教師も不足しているのが現状です。あなたのような若手に頑張っていただかないと」
意味がありません。
ばっさりと言い切るように継がれて、佐奈は言い返す言葉をなくして、きゅ、と唇を噛む。
すると、佐奈の抵抗が止んだと取ったのか、彼は小さく微笑んだ。
もっとも、佐奈の目には微笑ではなく、にやり、と笑んだようにしか見えなかったが。
佐奈が口を噤んでいるその隙に、彼はそれでは…と、改めて口火を切った。
「あなたは確かに研究所での経歴は浅い。ですが、あなたは既に資格を取得していましたね」
「……ぅっ」
「つまり、何の問題もありません」
「ちょ……っ」
異論を唱えるのも、もはやそれまで。
この日、この瞬間から……。