第5章 彼の過去
何を考えているか分からなくて気味が悪いから『ミステリアス』。
でも物腰は丁寧で、外面は良かったから『エレガント』。
目の前の彼女が語れば語るほど、佐奈はかたかたと震える自分を止められなかった。
こんなに腹が立ったのは、もしかしたら初めてかもしれない…そう思うほどだ。
佐奈にしたところで、もちろん自分の力不足を自覚している。
もっと頑張らなくちゃ、しっかりしなきゃと思っている。
だけど……。
奇しくも『二人目の先生』となった自分だけでなく、煉のことまで貶めるなんて。
一度は自分が指導した『生徒』を悪く言うなんて。
頭にきて。許せなくて。
頭の中で何かが弾けるような、何かのスイッチが入ったかのような…そんな感覚……。
怒るほどに、佐奈は自分の中の何かが、すう、と醒めていくのが分かった。
「煉に問題があるとは思いません」
「何ですって?」
怖くもない。
彼女がどれほど優秀かなんて興味もないし、悔しいとも思わない。
いっそ冷たく冷静に、佐奈は居丈高な女を真っ直ぐに見据えた。
「あなたがそれほど優秀な先生なら、どうして煉は今もあなたの元にいないんですか」
「な……っ」
「最初から煉のレベルが他の擬人化より高いとは確かに思っていましたが、それほど疑問に思わなかったのは私の落ち度かもしれません。でも名前のことは、研究所入所の際に擬人化自ら命名する場合もあります。私と出会った時、彼が既に名前を持っていたからと言って何の不思議も疑問もありませんでした。もちろん、彼が『煉』という名を気に入っているかなんて知りません。気になるなら、本人にお聞きになったらいかがですか」
「何ですって!?」
「大体、そんなに優秀な先生が、自分の生徒を気味が悪いなんて言うとは思えませんが」
「…………っ」
「自画自賛も結構ですが、それで貶められる煉の気持ちを考えたことはあるんですか」
「生意気なっ!」
応酬を重ねるごとに紅潮する彼女に反して、佐奈の冷静は変わらない。
先生の優劣なんて佐奈は知らないし、まだよく分からない。
でも少なくとも、煉にとっては良い環境ではなかっただろうことは、彼女との会話から見て取れた。
だから彼は関係を解消して、二人目の先生を必要としたのだ。
そして三ヶ月経った今も、煉は自分の元にいる…いてくれている。