第5章 彼の過去
自分が優れた先生だなんて、夢にも思っていない。
それどころか、きっと出来の悪い部類だろう、なんて、そんなこと、佐奈は自分で自覚していた。
でもそれを、突然現れた見知らぬ女に言われる覚えはない。
例え同じ研究所の先輩だったとしても、本当に煉の一人目の『先生』だったのだとしても。
可哀相…だなんて、そんなこと。
「何が言いたいんですか」
互いに初対面の相手…だが少なくとも、相手が自分に好意的じゃないことは、佐奈は十分に理解した。
先生と生徒という関係になっても、色々な理由で解消される場合がある。
珍しいケースとはいわれているが、皆無でないことは佐奈だって知っていた。
自分が二人目の先生だと知って、何も感じないわけじゃなかったが、少なくとも、今の煉は自分の生徒なのだ。
いきなり現れた自称『一人目の先生』になんて、文句なんか言わせない。
「煉は、今は私の生徒です」
だから引かない。
真っ直ぐに、自分より背の高い彼女をねめつける、が、相手はびくともしなかった。
「知ってるいるわ。でも、私の方が彼を伸ばしてあげられた。煉っていう名前もそのままのようだけど、それも私が付けてあげたものよ?今も変えずにいるなんてね」
気に入ってくれてるみたいね? と微笑む様は一人悦に入っている。
確かに、煉が来てから三ヶ月。
でもその間にアップしたレベルは7。
ほぼ平均値でもあるそれを、殊更気にしたこともなかったが、でも。
彼女の元にいた時には三ヶ月で15アップしている…というのなら、それが本当なら。
佐奈が無意識に唇を噛むと、彼女は勝ち誇るように微笑んだ。
「煉の意思を尊重して、今まで黙っていたけれど。あなたの指導力に問題があるんじゃない?それとも今の煉にも問題があるのかしら?あんな風に勝手に飛び出すなんて、元々問題のある獣だったのかも」
「っっっ!」
彼女の紡いだ言葉の最後に、佐奈は怒りで身体が震えるのを感じた。
「いつまで経っても懐かないし、甘えてこないし、何を考えてるのか分からなくて気味の悪い奴だったけど、頭は良かったのよね。レベルが上がるほど私の評価にもつながるし。私が優秀だっていう証拠にもなるから、そこだけは役に立ってたけど」