第5章 彼の過去
「あの……?」
職員証を付けている彼女は、確かに研究所の職員らしい。
でも、佐奈は彼女に一面識も持ち合わせていなかった。
だから飛び出した疑問符に、彼女は佐奈よりずっと大人びた佇まいで、くす、と笑んだ。
それは好意的…というよりは、明らかに見下すような、そんな笑みで。
「煉の画面……。つまり、あなたがそうなのね」
「え?」
「あなたが煉の新しい『先生』なんでしょう?」
「新しい?」
言い方がいちいち引っかかる。
『新しい』とは、どういうことだろうか。
佐奈の疑問はそのまま表情に表れていたらしい。
彼女はまた小さく笑った。
「ふふ、分かりやすいのね、あなた。それに…何も知らないなんて、可哀相にね」
「可哀相?」
目の前の彼女と話せば話すほど、佐奈は何だか不愉快になった。
含むような言い方ばかりで、一体何が言いたいのか。
こういう輩の相手はしたくない。
時間の無駄とばかり、
「失礼します」
佐奈は画面を落とすと、そのまま彼女の脇をすり抜けようとした…が。
「私は煉の最初の『先生』だったの」
「え?」
初めて聞く言葉に、佐奈は無意識に立ち止まる。
見て取って、彼女は更に続けた。
「研究所を修了しただけでレベル20まで上がるなんて、あるわけないでしょう?研究所を出た時点の煉のレベルは5。通常の擬人化と同等レベルよ。それが三ヶ月で20まで上がったのは、私の元に来てから。あなたの元に行ってからは同じく三ヶ月経つようだけど、今のレベルは27だそうね」
「それが、何ですか」
自分は三ヶ月で煉のレベルを15も上昇させたと言わんばかりの彼女に、佐奈は目に険を込めた。