第20章 新しい関係
こうして、一部ちょっとした(かなり?)ハプニングを起こしつつ、擬人研究所主催のイベントは終了した。
煉も佐奈も、あの男のお陰で無傷かつ健康体、だったのだが、ちょっと服が破れている程度の佐奈はともかくとして、狼化して戻った煉の言い訳はやや苦しく、心配した研究所内の医療部によって、健康診断が決行されることとなった。
「はあ、何ともないのに。面倒だなあ」
うんざりする煉に付き添って(というより嫌がる彼を半ば引きずって)医療部に向かう佐奈は隣で笑っていた。
「まあまあ、安心料ってことで。その方が私も安心だし」
山で出会った『彼』の不思議な力によって、跡形もなく傷が癒えたのは本当だし、これで大丈夫だ、と言ったその言葉を、佐奈も煉も不思議と信用している。
でも、医療部が検査するというのなら、と佐奈は呟いた。
「煉はあれだけ大怪我してたんだから、一応検査だけしてみようよ」
面倒なのは分かるけど、と、佐奈が煉を見上げれば、無意識かつ不可抗力と知りつつも、上目遣いをされる形となった煉は、ぐ、と言葉につまり、吐息した。
「それで佐奈が安心するなら…」
明らかに嫌そうに、けれど佐奈がそこまで言うなら…と、いう不承不承の態が、そこにはありありと見える。
「うん」
頷いて、佐奈はひっそり苦笑した。
近頃ではいつの間にか、はっとするほど大人の男性然として見える彼だが、
こういうところはまだちょっと子供っぽい、というか、可愛らしい。
なんて、そんなことを暢気に考えていた佐奈の耳に、ふと身を屈めた煉の声が滑り込んだ。
「それから……」
「?」
どうかした?とばかり、佐奈は不思議そうに目で問いかける。
と、それを待っていたかのように、煉は目を細めた。
「俺、ちゃんと聞こえてたから」
すると、また短く、煉の答えが返る。
でも、佐奈にはまだよく分からなくて。
だから……。
「何を?」
不思議そうに…そして、いつになく何だか焦らす(?)ような彼の言い方に首を傾げる佐奈へ、煉は微かに息を止めた。
(もしかして…覚えてないとか……)
佐奈の反応に、煉はちょっと、そんな気がしてきた。