第19章 夏の思い出-2
人ならぬものから受けた傷は厄介だ。
人間世界の治療では癒しきれぬものも多い。
まして、狼も人間も、邪妖に近づきすぎたせいで、全身に瘴気を浴びてしまっている。
取り除かなければ、後々の災いにもなるだろう。
男は残された妖力を掌に集めると、煉と佐奈の傷を癒し、いつの間にか身に纏っていた瘴気を消滅させた。
途端、ぐらり、と男の身体が傾く。
すっかり全快した煉が男を支えようと駆け寄れば、狼姿ゆえにそれを果たしきれない彼の代わりとでもいうように、佐奈が男に身を寄せた。
とはいえ、かなり長身な部類に入る男の体躯を支えるのは、佐奈には荷が重かったらしい。
そのまま、ずるずると傾きそうになるのを、しかし、佐奈は何とか持ちこたえた。
「真っ青だよ。大丈夫?」
そういって、佐奈は男をその場にどうにか座らせることに成功する。
それを労うように煉が佐奈に寄り添うのを見て、何となく似合いだと思ってしまう自分はおかしいかもしれない、と男は自嘲した。
そうして…もう一度、手に力を集めて……。
「戻るが良い」
そう言って、掌を佐奈と煉に翳す。
何か言いたげ、というよりは言っているらしい二人に、ふ、と笑んで、それから…今夜の元凶となった、しかも今もって気絶している狐と兎も、ついでにあるべき場所へと転送した。
これで…良い。
これで…終われる……。
これはこれで、不思議と良い心地だと静か笑って、男はそっと…目を閉じた……。