第19章 夏の思い出-2
そして煉は…それを引き受けた。
だからこそ、今、ああしている。
でも……。
「どうして煉が……」
山の封印の為に…ひいてはみんなの為に。
それはとてもすばらしいことだ。
口では…言葉ではそう言えるし、頭では分かっている…つもりだ。
でも、殺されてしまうかもしれないそれを、どうして煉が引き受けなければならないのか。
この光景を前にして、佐奈の心はどうしてもそう思わずにいられなかった。
それに…もしも、たまたまここに居合わせたから…だとしたら、戻らない自分を心配した煉が捜しにきてくれた、その結果、いや、そのせい…かもしれなかったら。
いつも気にしてくれる。
心配してくれる彼だから。
ここまで来てくれて……。
そのせいで…だったら……。
「他に何かないの!?」
煉の為に、何でも良い。
何かできることはないのか。
そんな思いを吐露すれば、男は、す…、と目を細めた。
「そなたが?」
瞬間、佐奈はまるで馬鹿にでもされている気がして、肩を怒らせた。
「他に誰がいんのよ!」
目の前にいるこの男には、何かをする気なんて微塵も感じられない。
それなら…もし何かできるとしたら。
する必要があるとしたら、それは自分しかいないじゃないか。
「煉が危ないんだから、当たり前でしょ!」
だから…方法があるのなら、とっとと教えろと食いつかんばかりの勢いは、ついさっきまで朦朧としていた彼女とはまるで別人だ。
男は声を立てて笑った。
「愉快だな。あの狼も同じようなことを言っていたぞ」
「煉が?」
「獣は人間より敏感だ。この地に漂う瘴気にもすぐ気づいて立ち尽くしておったものを、そなたに気づくや、疾風のように駆け寄りおった」
瘴気を察した四肢は恐らく恐怖に竦んでいたはずで、なのにそれを跳ね除けて、人の姿をしたあの狼はそなたの元に駆け寄ったのだ、と、男は笑いながら告げる。
「そうして、あの狼はそなたを連れてこの場を離れようとしたが……。奴がおるゆえ、既に逃れることは叶わなかった。狼の足を持ち、己のみで駆けるなら、あるいは逃れられるやもしれぬと言うてやったが、そなたを置いては逃れる意味などないと、あの狼は言う。ゆえに、一つだけ方法がないわけでもないと教えてやった」