第19章 夏の思い出-2
「あれって……」
そういえば、自分達の直前にスタートしたのは、擬人化同士のペアだった。
ということは、あれは……。
擬人化達は、自身の意思以外でも、何かショックを受けたりすると獣化してしまうことがある。
あれはそういうこと…だろうか。
しかもどちらも横たわっていて、ぴくりともしていない。
「タカヤくん、あれ……!」
どうにかしないと、と続くはずの言葉は、佐奈の口を突くことはなかった。
「……っ!?」
黒い『何か』が、そこにいた。
本当に、いつの間にか、目の前に……。
煙のような…霞のような、でも…恐ろしいと直感する『何か』。
咽喉が引き攣って、声が出ない。
本当に怖いと、悲鳴すら出せないんだ、なんて新発見している場合じゃない…と。
「ぅ、うあああああっ!」
男の叫び声。
驚いて振り返った目には、一人逃げていくタカヤの背中が遠ざかっていくのが見えた。
(うそ、タカヤくん……っ)
自分だけ取り残された、と感じたのは、一瞬。
急に目の前が、真っ暗になった。
(こわいっ!)
瞬間的に感じたのは恐怖と……・。
(煉!)
無意識に煉の名を呼んで、それきり……。
(それから……)
頭が霞んで、視界も揺れていて……。
(なにも…きこえない……)
木々のざわめきさえ、聞き取れない。
それが、尚更怖くて…心細くて……。
感覚を失くしたかのような耳朶に、けれど……。
「…っ、佐奈…佐奈!」
聞こえた声に、佐奈の眼差しが焦点を結んだ。
「れ…ん……?」
ぶれる視界が、赤い髪を捉える。
それから…同じ、真紅の眼差し……。
(れん…だ…)
煉が、来てくれた。
それだけで、佐奈は泣きたくなった。