第19章 夏の思い出-2
幸い、佐奈の気配はまだ感じることができる。
それなら、こんな卑怯な腰抜け男(=煉主観)の相手など早々に打ち切って自分で佐奈を捜しに行った方がずっとマシだ。
瞬時弾き出した結論に、煉はそのまま社へと踵を返したが。
「れ、れんくん? 何処に行くんだい?」
何処に…というより、置いていかないで、という心の声が錬には思いきり伝わったが、そんなこと。
(知るか)
更なる毒を心に吐いて、煉はやっと立っているタカヤに、(わざと)頭を下げた。
「佐奈を捜してきます。あなたと一緒のはずですが、ここにはいないようなので」
煉は彼の中で最大限の理性と、そして皮肉を込めた丁寧な物言いを操りつつ、それを最後に今度こそタカヤを振り切る。
背後から情けない声が聞こえる気もしたが、そんなことは煉には関係のない話だ。
最初から乗り気じゃなかった佐奈を強引に巻き込み、挙句、どう考えても細工がありまくりだろうくじでペアを組み……。
その挙句、一人で逃げ出してきた男なんて、どうとでもなってしまえば良い。
獣…特に群れで生きるような野性(狼もこれに入るだろう)は、仲間を…特に雌や子供、現時点で当て嵌めるなら、女性を見捨てるような輩を、とても軽蔑する。
あの男がやがて一人で戻れば、佐奈を見捨てて逃げ戻った人間の男を、他の人間達がどう見るかは知らないが、少なくとも擬人化達からの視線はひどく冷たく、鋭いものになるに違いない。
そして…この先、佐奈が傷一つなく無事であればまだしも、もしも、何かあったら……。
「…………」
ぎり、と噛み締める。
その胸中に渦巻くものは、誰も知らないまま、煉の目にほどなく、肝試しの目的地でもある社がぼんやりと見えた。
佐奈の気配が…近い。
他にもいくつかの人間の気配がある。
木々に囲まれた道を途切れれば、小さな広場に朽ちかけた社が佇んでいるのが見える。
その広場へと足を踏み入れかけた時、煉は、背筋がぞわり、として、息を呑んだ。
『何か』…いる。
煉はその場で立ち尽くし、視線を巡らせた。
佐奈の気配が濃い。
すぐ傍にいる、はず……。
「佐奈!」
見つけた。
何より大切な存在を見出した、その勢いのまま、煉は射竦められるようだった身体を動かし、真っ直ぐに佐奈へと走り寄った。