第18章 夏の思い出-1
『タカヤ』という名前だけなら、以前、佐奈から聞いた同僚達の名前の中に含まれていた覚えがある(同じ部署の同僚で話が合う相手だと言っていたので、煉的には面白くない記憶として鮮明に残っていたりした)。
そして恐らくこの場にあって、この男(タカヤ)にとっても、自分は邪魔なオマケに違いないと煉は確信した。
タカヤの目的は、佐奈だ。
だから、その傍にいる存在は、二人きりになる為には邪魔でしかない。
タカヤの気持ちを感じ取った上で、煉はわざとその場を動かず…その上、ぴくん、と、遠く、佐奈にはまだ届かないだろう更に別の声を聞き分ける。
折り良く聞き取ったそれに、煉は面こそ変えないままで。
「佐奈、向こうで他の先生が呼んでるみたいだよ」
「え?」
「声が小さくて佐奈にはまだ…。あ、ほら、聞こえた?」
煉に促され、佐奈が耳を傾ければ、食事の片付けを手伝って欲しいと手を振っている仲間の声が聞こえた。
「あ、聞こえた。そうだね、手伝わないと」
「うん。そうだね」
煉が頷くと、佐奈はタカヤに軽く手を合わせる仕草をした。
「ごめんね、私、あっち手伝ってくる」
「え……」
まさかそう来ると思わなかったのか、タカヤが僅かに固まる。
その隙を突くように、煉は当然とばかりに佐奈の後に続いた。
「俺も手伝うよ」
「ホント?ありがとう。エコ対応とかで紙のお皿じゃないから、洗い物多そうだなーって思ってたんだよね」
もっとも、自分の食器は自分で洗うよう指導されていたりするのだが、守らない者というのは、まあ、何処にでもいるものだ。
それに、鍋や飯盒もある。
「頼りにしてるよ」
佐奈が茶化すように言うと、煉は眉を上げながら、請け合うように、にっこりと笑った。
「頼りにされましょう?」
まるで息の合う二人を見せ付けられたかのように(煉は明らかにそのつもりだったが)、タカヤはその場にぽつん、と取り残される。
やがて、自分も手伝うよ、と追いかけようとしかけて、そうだった、ととあることを思い出し、含むように笑いながら、彼は別の場所へと向かっていった。