第18章 夏の思い出-1
彼はあくまで『生徒』だ。
どんなにすばらしい男性へと成長したとしても、自分は『先生』として見守り、やがて独立していく姿を見送るのが役目なのだと、そう考えてきた。
考えようと…してきた……。
なのに、いつの頃からか彼にどきどきする自分がいて。
そんなものは気のせいだとやり過ごそうとして、目を反らして。
(だけど……)
元々不器用な部類の佐奈は、煉のようにテンポよくテントを設営できない。
ぼんやりと考え事をしていれば尚更だったが、そこへ、男性の手が、す、と横から現れた。
はっ、として隣を見れば、
「大丈夫?後は俺がやるから」
柔らかな笑顔を浮かべた、同僚の男がいた。
所属も同じで、職場では席も近く、年齢も近い彼は、比較的仲の良い同僚の一人だ。
その姿を認めて、佐奈は軽く頭を下げた。
「ありがとう、タカヤくん」
何故かファーストネームで呼び合う擬人研究所の風習に基づいて、というより、そのせいで既に癖になっている呼称をそのまま口にすれば、彼もまた、当たり前のように首を振った。
「気にしない気にしない。それより、今夜からは自炊だし。俺そっちは全然だからさ、その時は頼りにさせてもらうよ」
「あ、そっか」
そういえば、今夜からはテント暮らし…ということは、当然食事も自炊になる。
今夜は定番(?)のカレーライスと聞いているが、炊飯器でなく、飯盒でご飯を炊くなんて、人間である佐奈にしたって、どれくらいぶりだろうか。
「ご飯上手く炊ける自信ないなあ。飯盒なんて、何年ぶり?って感じだし」
「だよなー。俺も。学校でキャンプに行った時以来な気がする」
「私も」
普段からキャンプが趣味だったり、こういう場所での自炊に慣れている、というなら話は別だが。
残念ながら二人とも、そうした趣味も特技も持ち合わせてはいなかった。
「ま、得意な奴は他にいるし」
くい、と彼が指を立てて示した先には、テントの設営から、色々な支度まで、生き生きと指示して回っている複数の先生達が見えた。