• テキストサイズ

擬人カレシ~真紅の狼・初めての生徒編~

第18章 夏の思い出-1


翌日、合宿に参加している全員の姿が、山の中にあった。
今日から最終日までの残り数日、山中でキャンプを体験する為である。
あらかじめ通知されていた旅の行程にも当然記載はあったが、擬人化の多くは、キャンプというものを知らないし、体験したことがない。
擬人研究所としては、そんな擬人化達に少しでも多くのことを体験させる意図もあるらしい。
宿も民家もない開けた場所に、次々とテントを張っていく。
もちろん佐奈も手伝ったが、腕力のある擬人化はこういう場面では大いに重宝される。
元が狼である煉も、どうやらその一人であったらしく、その上、元々器用な一面も持つ彼は次々とテント張りを手伝っているようだった(手伝わされているともいうが)。
見るともなしにその姿を目で追っていた佐奈の目の前に、不意に煉が近づいて、佐奈は思わず尻餅をつきそうになった。

「……っ」
「……何してるの、危ないよ」

寸でのところで腕を掴んで助けてくれる、それはいつもと同じ煉だった。
が、佐奈の体勢が整うや、煉はすぐに手を離す。

「じゃあ、俺はまだ作業があるから」

まるで感情を覗かせまいとするように抑揚なく告げて、煉は他の擬人化と共に佐奈に背を向けた。
その間の、あまりの短さに、佐奈は『ありがとう』と言うことすらできない。
遠ざかる彼の背中を見ていると、ひどく胸が痛くて、自分でも分からないほど苦しくて切ない。
一生懸命に想いを吐露してくれた彼を突き放すような真似をした、これは当然の報いかもしれない。
自分は『先生』だから。
彼は擬人化で、これからもっとたくさんのことを知って、広い世界へ出て行く。
その時、自分は彼の枷になりたくない……。

(違う……)

そんなもっともらしい理由じゃなくて、本当は……。
擬人研究所で囁かれる、教師と擬人化との恋愛の顛末……。
中には今も上手くいっているカップルも当然いるが、その真逆の終焉を知るにつけ、自分は決してそうはなるまいと思ってきた。
初めから、『生徒』とそんな関係にならなければ良いのだ…と。
/ 179ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp