第18章 夏の思い出-1
「佐奈」
「ん?」
「ちょっとごめん」
「え? ええええっ??」
どうしたの、と問う間もなく、佐奈の身体がふわりと仰向けに抱き上げられる。
この場合、自分を抱き上げているのは煉しかいない。
当然の確信を持ちながら、佐奈は咄嗟に目を開けそうになったが、寸でのところでぎゅ、と目を閉じる。
いきなりのことに怖さを覚えながら、佐奈は自分を横抱きにしているだろう煉に問いかけた。
「煉?どうしたの?何かあった?」
視界を閉じている分、怖さが増してしまう。
それでも律儀に目を瞑っていてくれる…ちゃんと信用してくれる彼女に嬉しさを噛み締めながら、煉はすまなそうに肩を竦めた。
「ごめん、ちょっと足場が悪くて。目を閉じたまま歩くには危険なんだ」
でも、目的地はもうすぐそこだから……。
「もうすぐだから、我慢してくれる?」
問うような、願うような囁きは、抱き上げているという形ゆえの至近で、その声は佐奈の耳朶に直接吹き込まれるようだった。
吐息が…頬を掠める。
佐奈が思わずびく、と身を固くすると、
「ごめん、すぐだから」
この体勢を佐奈が嫌がっている、とでも感じ取ったのか、煉の声に申し訳なさそうな響きが滲む。
佐奈は遠慮がちに、恐らく目の前にある(目を閉じているので分からないが)、煉の服の一部を掴んだ。
「ち、違うよ。煉のせいじゃないから」
大丈夫だから、気にしないで…と重ねる佐奈に、煉の面が綻んだ。
「うん。あ、見えてきた」
ちょっと先を行く精霊達がそれぞれに指差す、木漏れ日に煌く一角が開けている。
辿り着いたそこで、煉は足を止めた。
「下ろすよ?」
予告して、ゆっくりとした所作で、佐奈が立ちやすいように支え下ろす。
「もう目を開けても大丈夫だよ」
すぐ隣に佇みながら、煉は佐奈の耳に内緒話をするように、わざと唇を寄せた。