第18章 夏の思い出-1
かつては人間達も彼らのような存在を垣間見て、互いに関わって生活していたこともあるらしいと、いつか、物知りの老いた狼から教えられたことがある。
だが今は、人間達は彼らを見る力を失い、存在していることさえも忘れているらしい、とも聞いた。
どうしてそんな風になってしまったかは煉には分からないが、擬人化し、街で暮らしてみて、何となく分かるような気がした。
人間は…こうした自然から、もしかしたら遠く離れすぎてしまったのかもしれない。
だとしたら、いつか自分もそうなるのかもしれないけれど。
これが、自分の選んだ道だ。
そして…ここには、佐奈がいる。
擬人化の…この道に、悔いはない。
いつか、自分にも『彼ら』の存在が分からなくなってしまう日が来るかもしれないけれど……。
でも少なくとも、今ははっきりと見える。
元来悪戯好きな彼らは、自分達の姿を捉えた存在(煉)の到来が、どうやら嬉しいらしい。
小さな身体を揺らして踊り、そうかと思えば飛び跳ねながら後をついてくる。
(ついてくるだけなら良いけど……)
悪戯好き&遊び好きな彼らが、佐奈に悪戯でもしたら大変だ。
佐奈には彼らが見えないのだから、パニックは必至だろう。
煉はポケットに入っていた金平糖の袋(可愛いでしょ、と、出掛けに佐奈がくれたものだったりする)を開けると、佐奈に気づかれないよう、そっと数粒を彼らに渡した。
口元に指を立てて、しー、と、煉がして見せると、『彼ら』も仕草を真似ながら、こくこく、と頷き、細い小道を指差した。
何かと問えば、金平糖のお礼らしい。
泉の湧き出る、彼らお気に入りのその場所を見せてくれるらしいが、人間には場所を知られたくないという。
(どうするかな……)
困った煉は、しばし逡巡して。
「佐奈~。佐奈ちゃん、佐奈ちゃーん」
「な、なあに? そんなに呼ばなくても…って、だから『ちゃん』はいらないってば」
「でもたまには呼んでみたいんだってば」
佐奈の言い回しをわざと真似る煉に、佐奈の頬が膨らむ。
くすくす、と笑いながら、煉はそれよりも、と先を続けた。