第17章 心の距離とか、温度…とか
煉は遙の脇ををすり抜け様、彼にだけ聞こえる低い声で嘯いた。
「佐奈は返してもらう」
微動だにしない…あるいはできないのかもしれない遙の横を抜ければ、佐奈は目前だ。
煉はおもむろに佐奈の頭に手を乗せると、苦笑した。
「ほら、こんなに熱くなってる」
ダメじゃないか、と佐奈を嗜める彼の口調はあくまで柔らかく、何処か甘い。
佐奈はちら、と遙の背中を見遣った。
「ごめん、帰るの遅くて。実は買い物もできてないんだけど…」
「うん」
分かってるよ、と微笑む煉に、佐奈は困ったように首を竦めた。
「ちょっと、その…暑かったから。あそこのカフェに入っちゃおうって、私が遙くんを誘ったの」
だから彼は悪くない。
先に詫びた遙を、今度は佐奈が庇うように言い募る。
この妙な庇い合いが、煉には余計に面白くなかったが、買い物に出たはずが何も買わず、カフェにしろ、この公園にいたにしろ、二人で何かを話していたのだとしたら。
それはまるでついさっきまでの、穂香と自分との問答を煉に思い起こさせた。
もっとも、穂香と同じ言葉を、佐奈が遙に告げたとは思えないが。
それでも…もしかしたら、それに近い何かは話したかもしれない。
何となく…煉にはそう思えた。
別に何の根拠もない。
ただの勘…というやつだけれど。
どちらにしても、これから四人で一緒に酒盛り(?)という雰囲気じゃないことは確かだ。
「それじゃ、遙。俺達はこのまま帰らせてもらうよ」
言いながら佐奈を促せば、彼女も同じ考えなのか、頷きながら遙を見た。
「お菓子いっぱい置いてきちゃったけど、良かったらあれは二人で食べちゃってね」
「え…けど……」
菓子がどうこうより、遙が何を躊躇っているかなんて、佐奈も煉もお見通しだ。