第17章 心の距離とか、温度…とか
だがいずれにしろ、
「とにかく、まだ佐奈は何も知らないので、内密にお願いします」
「…………」
「いずれ自分でちゃんと伝えるつもりですので」
邪魔をするなとばかりの空気を暗に漂わせて、煉は穂香に軽く頭を垂れた。
自分の前では、『先生』の仮面なんて必要ない。
無理も、背伸びも必要ない。
同居の中で、時に外れる仮面の奥の、素の彼女が欲しい。
そして、まだ知らない彼女を知りたい。
それを知って気持ちが変わるなんて絶対ないと言い切れる。
彼女との、未来が欲しい。
願いは…それだけだ。
叶わないのなら、人間になる意味もないとさえ、今では思っている。
穂香の苦言も、友人として佐奈を心配している気持ちも分からないではない。
でも……。
「あの二人、遅いですね」
問答を打ち切るように、煉は時計を見ながら立ち上がった。
「佐奈を迎えに行ってきます」
遙も一緒にいるはずだし、彼が傍にいるのだから、何もないだろうとは思うが、煉は敢えて遙の名を口にはせずに外に向かう。
そうしてドアを開けながら、一度だけ、立ち止まった。
「佐奈を気遣っていただいたことと、情報には、感謝します」
だがやはり、それ以外には、煉は触れない。
そのままで、煉はドアの向こうへと姿を消した。
「……あの子、苦手かも」
残された穂香が一人、ぽつり、と苦く呟いたことは、誰も知らない。