第17章 心の距離とか、温度…とか
「だったら、どうするんです?」
「別に…どうもしないわ。出来もしないだろうしね。ただ、この手の話は研究所内でもよく聞くから、当然、佐奈も知ってる。そんな事例ばかりじゃないってことも分かってるだろうけど、きっとあの子は……」
「俺を受け入れないでしょうね」
皆まで聞かずに、煉は先を引き取った。
教師と擬人化との関係の顛末は知らなかったが、今、普通に想いを告げても、佐奈がすんなり受け入れてくれないだろうとは、煉も何となく分かっていた。
だから穂香にそれを指摘されたとしても、今更驚かないし、動揺なんてしない。
ただ少し、自嘲的になってしまうだけで。
「先生は、佐奈をよくご存知です。時間の長さでは、俺よりずっと……。でも俺も、知っていることがありますから」
「そうね」
「はい」
「あの子はぼんやりしているようで、ここってとこはしっかりしてる。それに今は先生って立場もあるから尚更……」
「しっかりしなきゃとか、頑張らなきゃとか、背伸びもしてる」
またも煉は、穂香の言葉を引き取り、ふ、と笑った。
「常にではないけど、自分は先生なんだからと、無理したり背伸びしてると感じることは、よくありますよ」
そのたびに、わざとからかったり、いじったり、時に甘やかすような言動をして、それを崩そうとしているのが、煉のこの頃…というか企みだ。
だがまあ、そこまで言う必要はないだろうと思いながら、それから…と、違う言葉を口にした。
「佐奈は結構怖がりでしたね」
その彼女が、教師と擬人化との恋愛について、二の足を踏まないわけがない。
まして…遠くない将来、成長した擬人化の恋人に、不要な存在とばかりに切り捨てられるかもしれない、なんて思えば(実例もあるそうだし)尚更だ。
自分なら、誓ってそんなことはしないし、考えもしない。
佐奈が離れたいと思ったとしても、絶対に手放さないのに。
穂香曰くの過去の擬人化達のせいで……。
そうでなくても、擬人化との関係に消極的だろう佐奈に、余計な不安材料を与えてくれるなんて。
会ったこともない過去の擬人化達に、煉はいっそ殺意を覚えた。