第17章 心の距離とか、温度…とか
「広さを知ったら、大切だったものがそうじゃなくなるとか、そんなのは初めから本当に大切じゃなかっただけでしょう。中には貴女の言うとおり、多くを知ることで、移り気になる輩もいるかもしれませんが。恋人になることで知った、それまでの『先生』とは違う一面に気持ちが変わったり幻滅したりするというなら、始めからその程度だったということなんじゃありませんか。それが貴女のいう『勘違い』だというなら、それは確かにそうかもしれませんけど。失礼を承知で言いますが、貴女の過去の体験がどんなものであれ、他の擬人化が同じと言うのは偏見ではありませんか」
当初の柔らかな空気など微塵もなく、そこには張り詰めたものが漂う。
穂香は瞠目し、そうして深く息を履いた。
「そうね…そうなのかもしれない。でも私は、佐奈には過去の私のような思いをして欲しくないのよ、煉くん」
そう告げた彼女の視線はあまりに真っ直ぐで、煉は反らせない。
そして同時に、煉はまさか、と感じて、それをつい口にした。
「まさか……」
「まさか、何? 煉くんが佐奈を好きだってことを、私が気づいてるかもってこと?」
「…………っ」
瞬間、それまで面を崩さなかった煉が、くっ、と唇を噛む。
だがそれだけで、穂香には十分だった。
「やっぱり、そうなんだ」
「え……」
「ごめんね、確信はなかったんだけど」
もしかしたらそうかな、とちょっとカマをかけてみた、と穂香は肩を竦める。
途端、煉はやられた、と前髪を掻き揚げた。
佐奈に出会う前の日々、嫌なことも多かったが、その分、あちこちでバイトにも明け暮れ、バーやら、ほんの僅かだったがホストのようなことをしたこともある。
様々なことが起こるそうした場所でそれなりに踏んだ場数は、そんな世界などまるで知らない佐奈よりも煉の方が長けているほどだったが(だからといって、それを穂香曰くの広さとは煉は思わないが)、今回は失敗した、というより、佐奈が絡んでいたからこそ、綻びが出てしまった感じだった。
(こんなことで引っ掛かるなんて……)
でも…気持ちが変わるなんて、自分にはありえない。
煉は開き直るように穂香を見返した。