第17章 心の距離とか、温度…とか
「知ってますよ。酒の肴になるようなものがお好みなんですよね、先生?」
くすくすくす、と余裕で微笑む煉を、穂香はちろ、とねめつけた。
「さては佐奈から聞いたな?ま、その通りだけど」
言いながら穂香はちら、と改めて煉を盗み見るように掠め見た。
穏やかに、余裕のように微笑を浮かべて、あからさまに表情を崩すこともない。
感情を素直に露わにする遙とは、明らかに異なる性情がそこにあった。
容易に崩れない表情と、感情を綺麗に隠してしまえる微笑。
それゆえに、何を考えているのか分からないとか、扱いにくいとか、そんな中傷を…しかもかつての『先生』から受けたという過去が彼にあることは、情報として穂香も知っていた。
『先生』としても佐奈より先輩で、年齢も五つ年上の穂香にとって、佐奈は友人であると同時に妹のようでもある。
だから何かと心配に思っていたこともあったが、こうしてみると、確かに煉という彼は一目で感情を見て取ることはできないし、それを扱いにくいと受け止めるかどうかは関わる相手次第だろう。
でも、どうやら佐奈は、この彼と良い関係を築けているらしい。
それを垣間見た気がして、穂香は少し安堵し…一方で。
「煉くん」
「はい?」
ふっ、と真剣な面持ちを見せた彼女に、煉もならうように向き直る。
何事かと構えた、その時、穂香は僅かに目を伏せた。
「他の先生と生徒の関係に余計な口出しは良くないって分かってるけど」
それでも、これは言わせて…と、穂香は神妙に言葉を継いだ。
「『先生』っていうのはね、あなた達の通過点でしかないのよ」
「………?」
それだけでは、煉には穂香の真意が分からなかった。
でも一つ、引っ掛かるとしたら。
「遙のことですか」
昨日、告白したという遙。
だが相手にすらされなかった、と肩を落としていた。
真っ先に思い出した光景に、穂香は困ったように笑った。