第17章 心の距離とか、温度…とか
いずれ先生が帰宅することを考えれば、遙が気まずさから逃げ続けることはできないけれど。
それでも多少の気晴らしになるのならと、煉は遙の提案を受け入れた。
マンションの入口で、ルームナンバーとパスコードを入力し、セキュリティゲートの奥へと進む。
煉が佐奈と暮らすマンションとほぼ同じ仕組みのそれを抜け、エレベータに乗った先に、遙とその先生…穂香の家がある。
廊下を進み、やがてドアの前に立つと、誰もいないはずのその奥に気配を感じて、煉と遙は顔を見合わせた。
マンションのセキュリティは厳重だ。
建物に入り込んだ上、部屋の中にまで…とは考えにくい。
でも実際に……。
「誰かいる……」
低く呟く煉の隣で、しかし遙は苦笑した。
「多分……」
「?」
遙は何かを確かめるように、ロックされているドアを開くべく手を伸ばす…が早いか、
「いらっしゃーい! って、ひゃああああっ!?」
内側からドアが開くや、中からは、いないはずの穂香その人が飛び出し、あまつさえ、
「ほ、ほほほ、ほのか、さ……っ」
誰と間違えたのか、穂香は思いきり遙に抱きつき、次の瞬間には、奇声を発して飛び退いた。
「ご、ごごご、ごめっ、間違えた!って、何で??」
遙の帰宅が彼女には至極不思議らしいが、遙にすれば彼女こそ、
「どうして穂香さんが、こんな時間に家にいるの?もしかして具合悪い?早退してきたの?」
こうなるともう、遙的には昨日の告白の顛末とかそんなことは一気に吹っ飛んでしまうらしい。
どうにもこうにも、先生、というよりは、大切な女性を過保護気味に気遣う恋人よろしく、遙は蒼褪めながら穂香を見遣り、次いで。
「だったらちゃんと寝てないと!」
完全過保護な心配モード。
似たような展開を何処かで見た気がして(身に覚えがあるともいう)、煉は肩を竦めながら所在無く苦笑する。
まあ、これならこれで自分は退散しようか、と思いきや。
「ちょっと、何運ぼうとしてんのよ!私は元気!何でもないったら!」
勝手に暴走するな、と突っ込みを入れつつ遙の傍から退避(?)した穂香は、距離を取りつつ、きっ、と遙をねめつけた。