第17章 心の距離とか、温度…とか
それに近頃…何だか佐奈がふと距離を置くような、ちょっと離れるような、そんな素振りというのか、気配を感じることがある。
佐奈のことに過敏になりすぎているのかもしれない。
気のせいかもしれないが、でも……。
避けられている、というほどではないが、何だか、前とは違和感がある、のだが。
でも、それが常にというわけでもないから、煉としてはどうにも掴みかねたし、佐奈に訊ねるのを躊躇わせた。
「はぁ……」
炎天下を歩いているせいもあるが、何だか違う意味で頭が沸騰しそうだ。
早く家に戻ろうと、煉は目の前の岐路を右に進みかけて……。
「煉」
すぐ背後から届いた声…ついでに、実はずっと気づいていたその気配の主に、煉は振り返った。
同じ擬人化仲間である遙もまた、この周辺のマンションに暮らしている。
だからバイト先からの帰途も、必然的にほぼ同じだったりして。
しかも今日は同じ時間にあがったし、この暑さの中、寄り道もせずに真っ直ぐ歩いていたわけだから、遙は煉の後方をずっと歩いてきたことになる。
煉もそれには当然気づいていたが、いつもなら何かと話しかけてくる遙が黙っている様子に、敢えて自分から近づくことはしなかった。
煉は特別心を開いた相手(佐奈とか)を除いて、必要以上に関わるのは好きじゃないし、群れることも嫌う。
翻れば、心を許した存在(佐奈)には、深い想いも関心も注ぎ、全力で守ろうとする。
そこには煉自身の性格もあったが、擬人化しても…あるいはいずれ完全に人間になったとしても残るだろうと言われている、生来の獣(狼)としての性情も関わっているらしい。
いずれにしろ、それが煉という存在の性情だ。
が、一方の遙は人懐っこく、快活で、周囲と楽しく過ごそうとするタイプだ。
にも関わらず、ここまで黙って後ろをただ歩いてきた…なんて、遙らしくない。
今日のバイトでの働きぶりを思い出す限り、何処か具合が悪いわけでもなさそうだ。
とすれば、他に何か理由がありそうだが、何も言ってこないものを詮索する気は、煉にはなかった。
だから、後はこのまま家に戻るだけ…だったのだが。
遙と道を違えるというこの岐路で、呼び止められてしまった。