• テキストサイズ

擬人カレシ~真紅の狼・初めての生徒編~

第3章 心配の理由(煉視点)


きっと、彼女はまだそこにいる…気がする。
ただの残業ってやつかもしれないが、それにしたって、遅い気がするから。
気になるから。
だから、急ぐのに。

「くそ、遅い」

つい零れ落ちる毒づきは、自分自身へのもの。
狼の姿なら、もっと早く走れるのに。

擬人化状態は体力の消耗によって次第に解け、獣化してしまう場合がある。
だがその他にも、自分の意思で獣と擬人とに姿を変転させることは可能だ。
ただ、人目のあるような場所で安易にしてはならない、とは研究所で教えられ、佐奈にもこれだけはしつこく言い聞かせられている。
でも今は……。

(今は……)

「大体、自分は結構心配性なくせに、逆に俺に心配させるとか……」

(今回は先生が悪い、ってことで)

いつも自分のことを心配してくれる先生…佐奈。
気にしてくれているくせに、心配してくれているくせに、なのに、別に心配なんてしてないけどさ、なんて憎まれ口が続いたりして、それがまた面白くてたまらない。

でも、今心配しているのはこっちの方だから。
幸い、夜道に人目はない。
とっ、と軽く地を蹴った、次に着地した足は、真紅の毛に覆われていた。
彼が走り去った後には、擬人化状態に纏っていた服が脱げ、あるいは裂けて散らばり…狼と化した彼が纏うのは自身の狼としての姿と、

『貴重品はここ!』

外出先で大事なもの(財布やらスマホやら)を無くさないようにと、肌身離さぬよう佐奈に言い含められて(既に前科ありの煉も、その辺りはちゃんと守っているらしい)、擬人時には肩から掛け、獣化の際には首から下げて邪魔にならないサイズのバッグ…というよりは袋(ちなみに佐奈作なので一部縫い目が不揃いだが、煉のお気に入りだったりする)のみ。

そうして風を切るように疾駆する、今の煉の脳裏にあるのは、佐奈のことだけ……。
こんなに気になるのも、心配になるのも、どうしてなのかなんて、考えない。
とりあえず今は、考えない。
でも一つだけ、煉には分かっていた。

佐奈は…『あの先生』とは違う。
何をされたわけじゃなかったけれど、どうしても相容れなかった『一人目の先生』とは……。

「先生」

今、口にする、煉の『先生』は佐奈ただ一人…だから。
/ 179ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp