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擬人カレシ~真紅の狼・初めての生徒編~

第3章 心配の理由(煉視点)


「それじゃ、お先に失礼します」

ぺこ、と軽く頭を下げる煉に、カフェのオーナーが頷く。

「ああ、お疲れ様。気を付けてな」
「はい」

今日のシフトは閉店まで。
すっかり深夜になってしまった時間帯、最後のシャッターが下りる音を聞きながら、煉はポケットからスマホを取り出した。

帰宅の連絡義務…なんてものはない。
先生…佐奈は、そうした報告義務を課さなかった。
ただまあ、心配しているかもな、と思えば…何となく。

「連絡、しておこうかな」

強制や義務というものを、佐奈はほとんど煉に押し付けない。
もっとも、共同生活という性質上、食事や掃除の当番制その他諸々、それなりにルールもあるし、必要に応じて、その都度ルール改正(?)もされたりするけれど。
煉にとって、佐奈と過ごすそれは、何ら苦ではなかった。

料理…というより、家事全般が苦手な彼女は、今までよく一人でやってこれたものだと狼ながらに思うほどだが、家事も料理も分担している内に、どうにかなってきている…気がする。

何より、佐奈の失敗作を食べるのも、何だか面白いと思える近頃。
擬人化しているとはいえ、狼と本物の人間とでは味覚に違いがあるのかもしれないが、それを差し引いても、失敗料理が楽しいなんて、自分でもちょっと驚きだ。

猫舌で紅茶好きというよりはコーヒーが苦手で、でもカフェラテは好きで、総じて甘いものも好き。
ちょっと寝起きが悪くて、ちょっと抜けててぼんやりしていて、でもちょっと気が強くて負けず嫌いなところがちらちら垣間見える。

そんな彼女は『先生』というよりも…なんというのか……。

「あれ……?」

そんなことを考えながら『先生』に電話すること、数回。
なのに。

「つながらない」

コール音はするのに、肝心の彼女が出ない。

「いつもならとっくに帰ってるはずなのに」

ただ気づかないだけ、とも考えられるけれど、でも、何だか……。

「先生」

きゅ、と握りしめたスマホを、煉はいつも持ち歩いているバッグに突っ込むと、家…ではなく、研究所に向かって走り出した。
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