第16章 誕生日譚~顛末
「襲うよ?」
物騒な声が低く響くが、当の彼女は酔いという夢の中を漂っている。
「ぅ……ん……」
ころん、と寝返りを打った拍子に、服を掴まれたままの煉も思わずバランスを崩した。
「ぅわっ!?」
そのせいで不覚にも接近した、その上、追い討ちをかけるように、動いたせいで佐奈のスカートの裾が乱れていたり…いなかったり。
「~~~~~~っ!」
勘弁してくれ、とばかり、煉はあらぬ方に視線を彷徨わせる。
この葛藤を、どうしてくれようか。
やり場のないジレンマに、やがてげんなりと天井を仰いだ。
「これで、朝まで……?」
いや、それは絶対に無理だ。
どんなに自制したとしても、それは絶対に自分がもたない。
じゃあどうする、と必死に思案していると、不意に、服が軽くなる。
少しでも佐奈から目を反らそうと明後日を見ていた煉が振り返ると、そこでは更に寝返りを打ったらしい佐奈が、身体を丸めるようにして気持ち良さそうに眠っていた。
「………まったく」
助かった…と、煉は深く息を吐き、自室へと引き上げる。
だが、本当の意味で『助かった』のは、果たしてどちらだったろうか……。
あのまま服を掴まれ続けたなら、いずれ理性が焼き切れたろう煉か。
それとも、そんな彼に文字通り襲われたかもしれない、佐奈か……。
まあ、いずれにしろ『危機』はとりあえず回避されたらしい。
そうして、そんな翌日。
やや二日酔い気味ながらも、せっかくだからと一日遅れのバースデーケーキ(といっても佐奈的に手作りケーキは自信がなかったので買ってきたものだったりするが)と煉の好きな手料理で食卓を囲んだ二人は、前夜の楽しい夕食の再現となったか…というと。
「佐奈はもう、酒禁止!」
「えー!何でー!?平気だもん!」
「へえ?あれの何処が?」
「ワインはちょっと…弱いだけだもん」
「ちょっと!?」
あれで?と、珍しくもお説教モードな煉に、佐奈がワインは控えると約束するのは、それから間もなくのことだった。