第16章 誕生日譚~顛末
ちょっと振り回された感はあったが、それはプレゼントとは言わないし、と思う、その佐奈の前で。
「何って……。佐奈の時間、かな」
「………え」
まさか、と思ったそれを口にされて、佐奈は答えに詰まった。
煉は時々こうして、一瞬返す言葉に困るようなこと(恥ずかしいとも言うが)を言う。
「わ、私の…時間?」
そんなことを言われても、そういうつもりは別になかったのだが……。
佐奈は納得いかないように怪訝な顔をしたが、煉にはそれこそが逆に不思議だった。
「だって今日の俺は、佐奈のほとんど一日を独り占めしてたわけだしね」
佐奈にそんなつもりはなかったろうけど、と煉が笑うと、佐奈は思わず俯いて目を泳がせる。
俯いてしまった彼女を見つめて、煉はその髪に触りたくなる衝動を抑えながら吐息とも苦笑とも取れない息を吐いた。
「バイトと違って、佐奈は毎日同じ時間に仕事に行って、遅くなることもあるし、家に帰れば俺って生徒もいてさ。佐奈が結構忙しいの、俺だって知ってるよ」
それを今日一日(正確には午後からだが)、佐奈を独占した。
「まあ、正確には結構振り回しちゃったって言い方もあるけどね」
「……確かに」
独占…なんて言われるとこそばゆいが、振り回されたという自覚なら、確かに佐奈にもある。
思わずこくこく頷いた佐奈と煉の前には、やがて綺麗に盛り付けられた皿が運ばれてきて。
無粋(?)な話はこれまでとばかりに、シェフお勧めの料理に合わせた、お勧めかつ、甘口好みな佐奈でも飲めるようにと選ばれ、注がれたワイングラスを、二人はどちらともなく、かちん、と合わせた。
そうして、突然の今日の顛末への礼と謝罪とを煉が口にしようとする、前に。
「お誕生日おめでとう、煉」
本当に嬉しそうに、楽しそうに、佐奈が目を細める。
今日はもう駄目だけど、後で家でもお祝いしようね、とつながる言葉に、煉は一瞬、自分の言葉が詰まるのを感じた。
今、言葉を紡いだら、何だか泣いてしまいそうな、そんな気がして。
人前で泣くなんて、ありえない。
しかも…辛いわけでも、苦しくもない、この場面で。
けれど今の煉は確かに、息苦しくなりそうなほど、何かが競り上がってくるのを感じていた。